1月に再来日公演を控えるタイミングのいい新作
Hot Corner / The Five Corners Quintet
3年ぶりのセカンド・アルバムである。フィンランドから登場したヨーロピアン・ニュー・ジャズの旗手として、大きなうねりを巻き起こし、ジャズ・プロパー以外の音楽ファンを取り込んで1つのムーヴメントにまで高めた功績は、改めて特筆したい。ファイヴ・コーナーズ・クインテットを聴くにつけ、2005年に取材のためヘルシンキを訪れた時、トランペッター、ユッカ・エスコラの生演奏に初めて接し、バンド名の由来となった同市内の“五つ角”に位置する北欧の名店「ディジリウス」でCDを大量購入したことを思い出す。2006年に「ブルーノート東京」で行った一夜限りの初来日公演は、全員がスーツでキメた姿が60年代のスタイリッシュなユニットを連想させ、今も語り草となっているメモリアルなイヴェントであった。
今回の新作は基本メンバーの5人に、ヴォーカル、ヴィブラフォン、ストリングスが曲によって加わる編成で、前回の作風の延長上にあるものと言っていい。モダン・ジャズ黄金時代へのトリビュートを柱に置き、今の音楽ファンにアプローチしやすい現代的なセンスで再解釈するサウンド・コンセプト。意図的なローファイで統一感を演出した音作りの手際は、クラブ・ジャズの定石ではあるが、独自のアイデアを盛り込んでFCQならではの個性を発揮しているのが彼らの魅力となっている。ヴィブラフォンとストリングスの追加起用によって、さらにクールネスを強固にする手法は、繰り返すようだがやはりスタイリッシュなユニット性の表現として共感できる。
このジャンルでは生きる伝説的存在のマーフィーが連続参加し、楽曲提供で協力してくれたのも嬉しいプラス・ポイント。全11曲、46分に凝縮した構成は、長時間収録の常識化に対するアンチテーゼとも思われ、今勢いのあるバンドの姿を過不足なくパッケージした作品だと好意的に受け止められるはずだ。1月に再来日公演を控えるFCQの、タイミングのいい新作である。
【収録曲一覧】
1. Hot Rod
2. Kerouac Days In Montana
3. Skinny Dipping
4. Rich In Time
5. Midnight In Trieste
6. Come And Get Me
7. Interlope II
8. Waltz Up
9. Easy Diggin’
10. Shake It
11. Habib’s Habit
The Five Corners Quintet (allmusic.comへリンクします)
ユッカ・エスコラ:Jukka Eskola(tp,flh)
ティモ・ラッシー:Timo Lassy(ts,bs,fl)
ミカエル・ヤコブソン:Mikael Jakobsson(p)
アンティ・ロトヨネン:Antti Lotjonen(b)
テッポ・マキネン:Teppo Makynen(ds,per)
アルトゥ・タカロ:Arttu Takalo(vib)
マーク・マーフィー:Mark Murphy(vo)
2008年作品