話題は小林さんが「わりなき恋」の朗読劇を見に行ったこと、そして原作の「わりなき恋」を読んだことに。
小林「当時は岸さんにお会いするとは思っていなかったのですが、『わりなき恋』を読ませていただきました」
岸「そう、それはうれしいわ。あれは4~5年間かかって書きました」
小林「私のまわりの多くの人も読んでいました。『わりなき恋』のお話は本当なんじゃないかな、とか、フィクションなのかなと、みんな考えたと思います」
岸「あの物語はパリのお寿司屋さんで食事をするところまでは本当です。本当と創作がない混ぜになっているほうがいいのです。でも起こりそうなことだから面白いと思います」
話は岸さんの新作『孤独という道づれ』に。『孤独という道づれ』は、青い封筒の「後期高齢者医療被保険証」を受け取ったときに思い出した、パリに住む一人のおばあさんのささやかな日常を描いた絵本のことに始まる。特に『わりなき恋』が生まれた状況などをつまびらかに書いている。
人生の夕暮れに、煌めくほど色鮮やかな虹がかかってもいいのではないかと思い、書いた『わりなき恋』の創作について、そしてカード詐欺に遭いそうになったことなど、ほんの少し、いつもとは違う気配にも、吃驚するような変事にも、まともにぶつかって身を絡めてきた岸惠子さんの16編の会心エッセイ集である。
さらに、パリに駐在する化粧品会社の渚詩子と、フランスの監獄から少年を脱獄させたという弁護士ダニエルとの愛の物語である『愛のかたち』や、新聞社のパリ支社で働く藤堂華子とモーリシャス島出身の語学学校で知り合った青年ドムとの愛と葛藤を描く「南の島から来た男」(『愛のかたち』に収録)など、かなり短期間で燃えながら書き上げたという岸さんの創作活動の話や友人の話題も……。
小林「忘れられない人はいらっしゃいますか」
岸「池部良さんです。『雪国』で共演しました」
小林「この映画が最後でフランスに行くことにしていたのですよね」
岸「三味線を弾くシーンがありましたが、三味線を六カ月、血豆をつくって稽古しました。池部さんにはとても助けられました。緒形拳さんもステキな方でしたね。母が生きているときは池部さんと緒方さんのお二人が連れ立って私の家に食事をしに来てくださいました」