猫好きとして知られる文田健一郎 (c)朝日新聞社
猫好きとして知られる文田健一郎 (c)朝日新聞社
この記事の写真をすべて見る
2020年の顔 1/2 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)
2020年の顔 1/2 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)
2020年の顔 2/2 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)
2020年の顔 2/2 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)

「にゃんこレスラー」

【編集部注目の「2020年の顔」をもっと見る】

 レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級の文田健一郎(24・ミキハウス)は、プレースタイルと嗜好からそうあだ名される。

 体がグニャグニャとよく曲がる。特に背中から腰にかけた筋肉と関節の柔らかさはぴかいち。正対した相手の背中に両腕を回して固定、ブリッジの体勢で後方に投げ落とす「反り投げ」が24歳の代名詞になっている。

 2019年9月の世界選手権(カザフスタン・ヌルスルタン)で2年ぶり2度目の世界一に輝き、東京五輪の代表に内定した。

「自分のグレコは反り投げと共にある。東京五輪でも初戦から投げ続けたい」

 投げへのこだわりは父譲り。地元の山梨・韮崎工高レスリング部監督を務める父の敏郎さん(58)は言う。

「押し合うだけじゃおもしろくない。投げの大技が出たほうが楽しいし、格好いいし、人気も出るでしょ」

 幼少期からマットが遊び場で、飛んだり跳ねたりしていた文田。小6のときに1学年下の女の子に負けたが、中1の春に公式戦で1勝したのが転機になった。

「勝ちがすごく自分の中で気持ちよくて。父に『本気でやる』って言った」

 ひたすら投げ込んで、筋肉とスタミナを身につけた。練習終わりに突然バタンと倒れるぐらいに熱中した。韮崎工高ではグレコの全国高校生選手権、国体で3年連続優勝。日体大時代の17年世界選手権では日本勢34年ぶりの金メダルを獲得した。

 視線の先には20年東京五輪の金しかない。1952年ヘルシンキから16大会連続(不参加の80年モスクワを除く)でメダル獲得中の日本男子の伝統を背負う。グレコで頂点に立てば、日本勢36年ぶりの快挙だ。

「責任重大。五輪で勝つためにすべてを自分にフォーカスして強化したい」

 とはいえ、根の詰めすぎはよくない。そんなときはカフェでリラックス。なかなか懐いてくれない猫に囲まれながら本を読むのが至福の時という。金メダルのご褒美は、猫が多く住むギリシャ・サントリーニ島への旅行で、「めっちゃでかいモチベーション」と相好を崩した。(朝日新聞スポーツ部・金子智彦)

週刊朝日  2020年1月3‐10日合併号