壮大なストーリーだが、どの作品でもテーマは設定せずに描き始めるという有間さん。

「最初に描きたい主人公が浮かび、その主人公の言うことやすることを追ううちに、ストーリーができていく流れで作っています。描いていて自然に出てきたものと、読み手が自由に感じたものが合わさって、テーマになっていく気がします。その意味で、中高年にさしかかった主人公が年配の女性たちの体験談を聞きながら、もう一度自分を肯定していくという流れが、この話のテーマになったと、今になって思います」

 気になるタイトル名だが、「ジルバ」はもともと軽快な音楽に乗って踊る社交ダンスの一種。それにつながったのは、ちょっと発音が似た「ゾルバ」だったという。

「タイトル自体は10年くらい前に思いついて、寝かせてありました。好きな語句を書き留めたり言葉遊びをしたりするのが好きなのですが、ある日ふとギリシャの小説とその映画『その男ゾルバ』が頭をよぎり、『このタイトルかっこいいな、もじるとしたら、その女……そうだ、ジルバはどうだろう』と、漠然と考えたのがおおもとです」

 ちなみに映画「その男ゾルバ」(1964年)はギリシャのクレタ島を舞台にした“人間賛歌”ともいえる作品。何があってもへこたれずに生きる主人公の姿は、『その女、ジルバ』に重なるところも感じられる。

 有間さんは女子高生の時にデビューし、4コマ、ギャグ、BLなど幅広いジャンルを手がけてきた。この作品にもギャグなど様々な要素がちりばめられているが、通底しているのは綿密な取材に裏打ちされた骨太のストーリー。出身地の福島を含め各地をまわり、ブラジルの日系移民の関係者からも話を聞いた。

「意識的にではなかったのですが、それまでになく人に取材しては描く話だったので、自然に作風が決まっていきました。ギャグはもっと入れたかったですね。全編ギャグの回も描いてみたかったです」

 有間さんは「月刊コミックビーム」(KADOKAWA)の2020年2月号(1月11日発売)から、近未来ファンタジーの新連載『伽(とぎ)と遊撃』を始める。国籍、言語が統一され、コミュニケーション能力が非常に重視される一方で、「物語」「創作」「空想」が粛正された世界が舞台だ。

 新作への期待も高まるなか、「笑って、泣かされる」この代表作を読む読者が増えそうだ。(本誌・緒方麦)

※週刊朝日オンライン限定記事

暮らしとモノ班 for promotion
「昭和レトロ」に続いて熱視線!「平成レトロ」ってなに?「昭和レトロ」との違いは?