イエスタデイズ/キース・ジャレット
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キース・ジャレットからのお年玉
Yesterdays / Keith Jarrett

 2008年はキース・ジャレット・ファンにとって、新録新譜がリリースされなかった年として記憶されることとなった。2000年以降に限って言うと、2007年までは毎年の新作が恒例であり、昨年はその意味での欠落感が拭えなかった。しかし年が明けてさっそく本作が届けられたということで、こりゃ~新春から縁起がいい。

 2001年4月に行われたトリオのジャパン・ツアーからのライヴ・アルバム。データ面で注目すべきポイントがある。同ツアーの音源は2002年に2枚組の『オールウェイズ・レット・ミー・ゴー』で登場していて、今回のように同日のステージをさらにアルバム化した例は過去にない。『Vol.1』『Vol.2』という出し方が一般的だが、本作は6年間のインターバルをはさんだことに加え、アルバム・コンセプトを変えている点に留意すべき。つまり即興曲中心の『オールウェイズ~』に対して、こちらはスタンダード・ナンバーで固めており、同日の演奏ではありながら全く性格が異なるのだ。同ツアーの前評判で、今回のキース・トリオは即興曲主体のプログラムになるのではないか、と囁かれたが、実際のところは5公演中、最初の2公演が即興主体で、後の3公演は有名曲中心であった。

 本作は2001年4月30日、最終日のステージを8曲目まで演奏順に収録している。四半世紀もの歴史を重ねてきただけに、アルバムでの再演曲が少なくないキース・トリオは、ここで“新曲”を3曲収録。#1にホレス・シルヴァー『ホレス・スコープ』収録曲を持ってきたのは、モダン・ジャズの遺産に対するキース流のオマージュなのだと思う。#4、#6のようなバップ・ナンバーも好んで取り上げてきたキースが、シルヴァーの数ある名曲からこれを選曲したセンスに拍手を送りたい。アルバム・タイトルにもなった#3は同ツアーで最多の3回演奏されたナンバーで、当時キースにとって同曲が一番気になるスタンダードだったことがわかる。そして最高のサプライズが最後に用意されていた。#9はツアー2日目のサウンド・チェック時の演奏なのだ。公表が前提ではない演奏を敢えて収録したキースの真意は何か。当代最高峰のトリオがファンに向けて贈る、サービス精神に溢れたプレゼントと聴いたのだがどうだろう。

【収録曲一覧】
1. Strollin’
2. You Took Advantage Of Me
3. Yesterdays
4. Shaw ‘Nuff
5. You’ve Changed
6. Scrapple From The Apple
7. Sleepin’ Bee
8. Intro~Smoke Gets In Your Eyes
9. Stella By Starlight

キース・ジャレット:Keith Jarrett(p) (allmusic.comへリンクします)
ゲイリー・ピーコック:Gary Peacock(b)
ジャック・ディジョネット:Jack DeJohnette(ds)

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