80歳男性が逆走を始めたとみられている赤城高原サービスエリアの入り口 (c)朝日新聞社
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運転時認知障害早期発見チェックリスト30 (週刊朝日2019年12月20日号より)
運転時認知障害早期発見チェックリスト30 (週刊朝日2019年12月20日号より)

 高齢ドライバーによる悲惨な自動車事故が後を絶たない。12月1日には群馬県渋川市の関越道で80歳男性が運転する軽自動車が逆走して対向車と正面衝突、計3人が死傷した。高齢者への風当たりは強くなるばかりだ。一方で、運転免許返納で生じるリスクもある。高齢者が運転を継続するためにはどうすればいいのか。

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「運転をやめた高齢者は、運転を継続している人に比べ、要介護となる可能性が約2倍高くなるという調査結果が出ています」

 超高齢社会における移動と健康について研究する筑波大の市川政雄教授(公衆衛生学)は、こう指摘する。

 市川教授を含む研究チームは、65歳以上の男女約3千人を対象に、高齢運転者が運転をやめるとどうなるかを追跡調査した。2006~07年時点で要介護認定を受けておらず、かつ運転をしている人に、10年時点で運転を継続しているかを改めて確認し、さらに16年まで追跡して分析した。

 年月を重ねれば、身体能力や認知機能は衰えがちだ。そういった調査対象者の元々の健康状態を統計学的に調整して分析したところ、運転をやめて公共交通機関や自転車を利用するようになった人は要介護となるリスクが1.69倍、家族の送迎などを利用し、公共交通機関や自転車を利用しない人は2.16倍になるという結果が出た。

 年間千人当たりに換算した要介護認定率では、運転を継続した人は37.6人なのに対し、運転をやめた高齢者の数字は非常に高い。「公共交通・自転車利用あり」の場合は82.3人、「公共交通・自転車利用なし」の場合は118.6人が要介護認定を受けるという結果だ。原因は何が考えられるのか。

「運転をやめて活動的な生活が送れなくなった人においては、体の衰えが加速してしまったのかもしれません。しかし、運転をやめても能動的な移動手段を使って外出できれば、この数字を見る限り、要介護認定に至りにくいと言えます」(市川教授)

 高齢者が車を使用する理由は、通院や買い物など生活に密着したものが多い。車の代わりの交通手段がない地域では、生活が立ち行かなくなる恐れもある。

 免許更新の際の認知機能検査についても、市川教授はこう指摘する。

「現在、75歳以上で免許更新する際、認知機能検査を受けることになっていますが、(09年の)検査導入後も事故は減っていないんです」

 認知機能検査の結果が芳しくなければ、自身の運転を見直したり免許を返納したりして事故が減るはずだが、直接的な影響は与えていないということになる。

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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