TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は猫好きの村上春樹について。
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村上春樹さん原作・蜷川幸雄さん演出の舞台『海辺のカフカ』は2012年初演以来7年間にわたってロンドン、シンガポール、ソウル、ニューヨーク、今年2月のパリと世界各都市を回ってきたが、これが見納めなのかと切なくなった。21年早稲田大学に創設される村上春樹ライブラリー第1回シンポジウム第一部の演劇パートでこの『海辺のカフカ』の舞台映像と猫の場面が再現された(11月28日、井深大記念ホール)。
春樹さんが通った演劇博物館を眺めながら銀杏の落ち葉を踏みしめて会場へ。この博物館同様、村上ライブラリーも大学の宝物になるのだと思いつつ。
黒猫のオオツカさんと、木場勝己さん演じるナカタさんが舞台に登場し、猫と人間の会話が始まる。君には影が半分ないと猫に言われたナカタさんは自分の影を探す旅に出る。舞台後のアフタートークで、天気についての猫とのやりとりがニューヨークとパリで受けたと木場さんは語り、僕には思い出というものがない、それは言葉がないからというシーンが忘れられないとも。最近春樹さんはジョギング中に3匹の猫と知り合い、ちょっとした挨拶を交わしているそうだ。だから猫との会話は春樹さんには特に不思議なことではないのかもしれない。春樹さんは学生時代、猫と一緒に寝て冬の寒さをしのいだと言っているし、経営していたジャズバーの名前は「ピーターキャット」。『ねじまき鳥クロニクル』『1Q84』にも猫が登場し、新潮社のサイト「村上さんのところ」では「『知らん振り』『照れ隠し』『開き直り』。みんなうちの猫たちから学びました。だいたいこれで人生をしのいでいます」とコメントしている。