ラスト・ナイト・ザ・ムーン・ケイム・ドロッピング・イッツ・クローズ・イン・ザ・ストリート/ジョン・ハッセル
ラスト・ナイト・ザ・ムーン・ケイム・ドロッピング・イッツ・クローズ・イン・ザ・ストリート/ジョン・ハッセル
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ジャズという枠に収まり切らないジョン・ハッセルの新作
Last Night The Moon Came Dropping Its Clothes In The Street / Jon Hassell

 ブライアン・イーノ、ジャクソン・ブラウン、ビヨーク、マンハッタン・トランスファー、イブラヒム・フェレール……ほとんど関連性のない多ジャンルのアーティストの作品に参加。そのキャリアが物語るように、ジョン・ハッセルはジャズという枠に収まり切らず、アンビエント、エスニック・フュージョン、現代音楽等、ボーダーレスな活動を行ってきたトランペッターである。1937年メンフィス生まれのアメリカ人が、長いキャリアを通じて、近年はヨーロッパの新世代同業者に大きな影響を与えている点も見逃せない。

 これはECMでのリーダー作としては、実に25年ぶりとなる最新作だ。2005年の前作『マジック・リアリズム2』(Label Bleu)でクレジットしたユニット、マーリファ・ストリートのメンバー2人を除いては新しい顔ぶれが参加。さらにこのレーベルらしいコンセプトが用意されていて、興味をそそられる。文章をそのまま冠したアルバム名は、13世紀の神秘主義詩人ルーミーの作品から拝借したもの。

 ハッセルは、「映像的な構造を持つシンフォニックで連続的な作品」と説明している。すべて自身のペンによる収録曲は、ほぼ途切れなく続く構成で、確かにヴィジュアルなイメージを喚起するサウンド絵巻の趣だ。基本的には静かなムードの中で、エアリーなトランペットがメロディーを吹きながら進行する演奏であり、衝撃音が現れたり劇的な展開を表現する内容ではない。しかしこのクールで、どこか非日常的な音空間には独特の心地よさがある。全曲に参加のヤン・バングが作るエレクトリック・サウンドが、アルバム全体から静かな通奏低音を醸し出しており、ギターのアイヴィン・オールセットと共に、新世代ノルウェー人の貢献が重要な要素だ。大半はフランスで録音された音源をLAでミックスしたトラックだが、そこにベルギーとロンドンのライヴや、元々ヴィム・ヴェンダース監督映画のサントラに提供した楽曲のリミックス・ヴァージョンも加えており、一聴しただけではそうとは気づかない手の込んだプロダクションである。ECM効果も期待できそうなハッセルの古希超え新作。

【収録曲一覧】
1.Aurora
2.Time And Place
3.Abu Gil
4.Last Night The Moon Came
5.Clairvoyance
6.Courtrais
7.Scintilla
8.Northline
9.Blue Period
10.Light On Water

ジョン・ハッセル:Jon Hassell(tp,key) (allmusic.comへリンクします)
アイヴィン・オールセット:Eivind Aarset(g)
ヤン・バング: Jan Bang(live sampling)
ヘルゲ・ノルバッケン:Helge Norbakken(ds)

2008年フランス、ベルギー、ロンドン録音