気になる人物の1週間に着目する「この人の1週間」。ふんわりした大阪弁。お洒落もおいしいもんも、大好き。嫌いなんは、サクリャク。そんなやわらかい人当たりは、人との垣根を取り払う。仕事ぶりはしかし、挑戦的だ。円熟の時代小説作家・朝井まかてさんを追った。
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その記念写真では40人余りの人が肩を寄せ合っている。朝井まかて夫妻だけでなく、柔和な表情を浮かべる大人たちがいた。
今年2月、大阪・梅田のレストラン。朝井が受けた司馬遼太郎賞贈賞式の後、ゆかりの人々が集まった。
関西在住の人気作家らのほか、司馬賞受賞作『悪玉伝』の版元KADOKAWAや講談社などの担当編集者らが、東京から大挙して顔をそろえた。
宴は未明まで続いて場所を移し、記者も末席を汚した。順々に聞かされるスピーチから、お祝いだけでなく、それぞれの「まかてさん」への思いが伝わってきた。場の空気はお仕着せの会にありがちな、業務や義務という色合いからほど遠かったように思う。
若き編集者は後日、冗談ともつかない口調で、不意に明かした。
「ぼく、まかてさん家の息子になりたいなあ」
多忙極める直木賞作家にして、こんなに慕われる作家は、どんな人なのか。
連載などいま、並行して進める作品の数を尋ねた。
「いくつかな……五つ。後先を考えずに引き受けて走るたちで。あほなんです(笑)。作品ごとに頭を戻さな、あかんのにねえ。でも効率を考える人間なら小説を書いてないでしょうね。効率云々とは無縁の世界ですから」
描く時代の幅は作品によって広く、江戸時代初期から昭和の戦後まで筆は至る。「いろんな人の感情を抱いて、いろんな土地に行っています」
最新刊は、幕末の長崎で茶葉の海外貿易に独り乗り出した大浦慶を主人公にした『グッドバイ』(朝日新聞出版)。明治維新に至るうねりの中、果敢に生き抜く姿を描いた。
このお慶と朝井。なみなみならぬ情熱と覚悟の持ち主という点で、重なっていると見た。
書くことは幼い頃から好きだった。甲南女子大学に進み、日本文学を学ぶ。広告制作会社勤務を経て独り立ち、ライターとして長く働いた。
物語に親しみ始めたのは物心ついたときから。気がついたら好きで、小説は“友であり師”。いつもそばにあり、寝る前に読むのが至福。それは作家になった今もまったく変わらない。
40代半ばに至った頃、
「死ぬまでに1作、自分で書いてみたい」
そんな願いが芽生える。でも全く書けない。一念発起し、小説好きの老若男女が集まる大阪文学学校の門をたたいた。