人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の本誌新連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は「やっぱり、ラグビーだ!」。
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“にわか”ではない。筋金入りのラグビーファンである。高校生の時から花園ラグビー場に出かけていた。父の仕事の都合で、大阪に居て大手前高校という受験校に通っていたが、ラグビーは一年上に一人強い選手がいて、応援するのが息抜きになっていた。なにしろ東大、京大に進学が当たり前のような学校だったので。
彼の名前は忘れたが、顔は今でもすぐ浮かんでくる。早稲田大学に入りラグビーで活躍する矢先に、訃報が伝えられた。病気だったのか、事故だったのか……。
そのことがあって、私は早大に入ってからも時々秩父宮ラグビー場で早明戦などを見ていた。放送界に就職してからは、しばらく途切れていたが、かの明大のレジェンド、北島監督に仕事でインタビューしたのをきっかけに復活した。「前へ前へ」という北島精神で、なかなか早大も勝てなかった。
「ラグビーを見に行きませんか。十二月最初の日曜、国立競技場の早明戦です」
活字の仕事が中心になった頃、知人の娘から誘われたのがきっかけだった。彼女も早稲田出身で、つれあいは早大応援部の団長、彼女はマネージャーだった。家族ぐるみのつきあいで、毎年ラグビー早明戦を十二月に見に行くのが年中行事になった。帽子、セーター、手袋、ワセダカラーの臙脂色をどこかに身につけ、神宮外苑の銀杏並木の黄金色の落葉を踏みしめて帰る。
その一家に息子が生まれ娘が生まれ、子供の時から一緒にラグビーを見て、息子はすでに明大に入った。
早稲田の黄金期で、見た試合では負けたことがなかった。「行け!」。私も絶叫する。ぶつかる、組む、奪う、走る。全力を賭けた戦の後は、爽やかさしか残っていない。
今回のワールドカップでも、体力と知力を出し尽くした選手たちの明るさ。サッカーファンには叱られそうだが、足だけではどこか欲求不満がありはしないか。