TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回はラジオマンの幸せを再確認した渡辺貞夫さんとのエピソード。
【写真】渡辺貞夫さんのコットンクラブのライブのフライヤーはこちら
* * *
「スティーヴ(・ガッド)があんなに変わるとは思わなかったよ。ライブの直前までずっと練習している。演奏が始まるとブラシ(繊細なスウィープ奏法)から始めた。ステージで僕らはまずお互いの演奏を聴きあう。スティーヴのブラシに乗ってライブが始まる。もう別世界だった。彼も70代半ばになった。良い人生を送りたい、そんなドラムだった」と渡辺貞夫さんが微笑んだ。ブルーノート東京でのエピソードだ。こんな言葉を直接聞けるなんて、これもラジオマンの幸せすぎる日常なのかもしれない。
貞夫さんのスケジュールと言えば、村上春樹さんデビュー40周年記念の「村上JAM」が6月、スティーヴ・ガッドに加え、イエロージャケッツのラッセル・フェランテ(ピアノ)とジョン・パティトゥッチ(ベース)とのブルーノートライブが8月、10月にはコットンクラブで“タイム・アフター・タイム”という具合。
音楽と人生を楽しむ大人が集うジャズライブ。華やかな拍手と喧噪の中で貞夫さんと知り合ってどれくらいになるのだろうと思った。
20代の僕はモーニングワイドを担当していた。ゲストに村上龍さんや高橋三千綱さん、ご存命だった江國滋さんや今村昌平さんがいらした。『ベッドタイムアイズ』でデビューしたばかりのポンちゃんこと山田詠美さんには河出書房新社の薄暗い応接室で初めて会った。
渡辺貞夫さんがいらした時のことだ。世界のナベサダを前に、入社したての新人アナは緊張しまくっていた。質問の趣旨がわからず、貞夫さんも首を傾(かし)げるばかり。挽回の余地もなくそのまま時間切れとなってしまった。当時の編集はハサミだった。録音したテープをチョキチョキ切り貼りする。アナウンサーの声をカットし続け、気づいたらテープは5分しかなくなっていた。ゲストコーナーの尺は15分。どうしよう。放送は翌朝なのだ。