僧侶は生きざま、寺への勤務は職業だ。永樂さんが職業にもしたのは、得度後、傾聴ボランティアを続けながら光明寺の法要や行事を手伝っていたところ、新宿瑠璃光院が新設される2014年に、住職から「副住職3人のうちの一人に」と白羽の矢が立ったからだ。
「精いっぱい頑張らせていただこうと思いました」
自宅は長野だから、70歳を過ぎて東京へ単身赴任した。週5日の勤務。朝夕、本堂で正信偈(しょうしんげ)を読誦し、勤行する。納骨堂利用者の法要、見学者の案内のほか、「日曜仏教礼拝」「昼活」など寺のイベントで老若男女の参加者と語り合うのも業務。
永樂さん担当の茶話会を覗(のぞ)かせてもらった。「家の前に花を飾ると盗まれます。どうしたらいいんでしょう」と年配の女性が相談を持ちかけ、「まあ、ひどい」「盗んだ人を見つけ、叱ってやりたいですね」などと他の参加者が返す。笑顔で聞いていた永樂さんがおもむろに口を開き、「お腹立ち、分かりますよ。でも、あなたは、花を欲しくても経済的に買えない人にプレゼントされた。つまり、喜捨された。功徳を積まれたんです。自分のためだったと考えたらどうでしょう」と応じた。「目から鱗(うろこ)が落ちました」と相談した女性。他の参加者たちも頷(うなず)いた。
「仏教離れと言われますが、仏教の教えに基づく心の有りようを求めている人はむしろ増えていると感じます」と話す永樂さんからやり甲斐が伝わってくる。報酬は「大卒初任給より若干少ないくらい」という。(ノンフィクション・ライター 井上理津子)
※週刊朝日 2019年11月8日号