では佐藤さんは今、誰に嫉妬しているのだろう?

「おかげさまで、誰もいないなあ」と笑った後で「逆に嫉妬もされていないと思います」と付け加えた。その語感にはしかし、40年近くトップスターとして活躍してきた矜持(きょうじ)を感じさせる。

 三國さんは、4回結婚した。佐藤さんは3人目の妻との間の子で、小学生のときに両親は離婚した。

「三國は三國ですよ。佐藤政雄(三國さんの本名)というより、三國連太郎という人間のほうが、僕にとっては距離感が近い。親父というふうな感覚で彼と接したことはなかったです。それでも全然よかった。それでいてくれたからこそのありがたさがあります。僕が今ここにこうしていられることに、一番大きな影響を与えてくれたのが、彼ですから。そういう存在です」

 現場で監督にかみついたように、若い頃は、三國さんにも独特の距離を置いていた。三國さんが製作スタッフや俳優仲間に「息子をよろしく」と声をかけることを嫌がったという。

「抵抗がありました。そういう意識を持つべきだというか……。これも自分の思い上がりです。でも、今の2世といわれる人たちは、親の名前を出されても平気ですよね。それがスマートな対応なんでしょうけど、不思議に感じます。いずれ受け入れるときが来るんだから、一回親と距離を置いてみろよ、と言いたい」

 自身の息子も役者の世界に入った。

「ぼうず(息子・寛一郎さん)も三つ子の魂百までというんでしょうか、父の姿を見て思うところがあったんでしょうね。ぼうずは僕の名前を出されることをすごく嫌がりますし、芸名に姓をつけませんでした。僕は『将来自分が何者かが分かったなら姓をつけろ』と言ってます」

 自分が何者かを追求しつつ、社会と真摯に向き合ってきた役者である。とかく「スマートな人」が目立つ現代だからこそ、その陰影に富んだ表情が、観る者の心に残るのだろう。(本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2019年11月1日号