オーケストリオン/パット・メセニー
オーケストリオン/パット・メセニー
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パット・メセニーが贈る“1人オーケストラ”への冒険
Orchestrion / Pat Metheny

「このプロジェクトは19世紀末から20世紀初頭にかけて興ったあるアイデアを、現代のテクノロジーを使って機能させ、作曲、即興音楽、パフォーマンスのための自由な新しいプラットフォームを作り出そう、というコンセプトの元に行われた」(PM)。

 オーケストラとの関連性を誰にでも連想させるアルバム・タイトルは、実は我々の多くに馴染みのない“楽器の自動化”に由来するものだった。オーケストリオンとは19世紀末から20世紀初頭に実在した、オーケストラの複数の楽器を同時に演奏できる大掛かりな機械のこと。本作はそのコンセプトをもとに複数の発明家の協力を得て、最新鋭の技術を盛り込んだシステムを開発したことによって可能となったものである。

 演奏者はメセニー1人だけ。簡単に言えば“1人オーケストラ”だ。本プロジェクトの出発点はメセニーの少年時代にさかのぼる。祖父母の自宅地下室にあったプレイヤー・ピアノで曲を試すのが大きな楽しみになっていた。やがて自動ピアノのメカニズムを他の楽器にも応用したオーケストリオンの存在を知り、長年にわたる研究の成果がここに結実したわけだ。

 舞台裏を知らずに本作を聴けば、パット・メセニー・グループの新作だと多くのファンが思うだろう。その意味ではこれまでのキャリアの柱として、30年間積み重ねてきたPMGの音楽性と、ほとんど誤差のないサウンドが楽しめる。壮大なスケールを持つアンサンブルとドラマティックな曲展開、随所に現れる特徴的な旋律は期待を裏切らず、満足度が高い。

 さらに今このタイミングだからこそ可能な、未踏の領域へと足を踏み入れるメセニーの冒険心にも拍手を送りたくなる。メセニーの頭の中にある一見、実現不可能なアイデアを現実の形に成し遂げた勇気と情熱と行動力。その素晴らしさを繰り返し体感したいサウンドがここにある。すでにスケジュールが発表されているヨーロッパ~北米ツアーに続いて、オーケストリオンのジャパン・ツアー開催に期待を寄せてもよさそうだ。

【収録曲一覧】
1. Orchestrion
2. Entry Point
3. Expansion
4. Soul Search
5. Spirit Of The Air

パット・メセニー:Pat Metheny(g,p,marimba,vib,b,per,etc) (allmusic.comへリンクします)

2010年作品