ウイントン・マルサリス率いるオーケストラの5年ぶりの新作
Portrait In Seven Shades / Jazz At Lincoln Center Orchestra
現在NYジャズ界のオーセンティック部門の象徴的存在と言えるリンカーン・センター。その音楽監督を務めるウイントン・マルサリスは、自身がリーダーのバンド活動と並行し、88年の結成以来オーケストラを率いて、アメリカが生んだ偉大な音楽芸術であるジャズの歴史的価値を世界中に伝え続けている。
公式作としては約5年ぶりのリリースとなるこの新作は、3つの新機軸を打ち出したことがまず特筆される。「リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラ」として、これまでに6枚のアルバムを制作してきた彼らが、今回名称を「ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラ」に改めて再出発を図ったこと。
また大手のColumbia/Sonyや中堅のPalmettoからの販売元を、新たに立ち上げた自主レーベルJazz At Lincoln Centerに変更した第1弾であること。そしてエリントン、モンク、コルトレーン、ミンガスをアルバムのレパートリーとしてきたJLCOが、メンバーであるテッド・ナッシュのオリジナルで全曲を構成したことである。この企画を提案したウイントンからのリクエストは「アルバム・テーマがあること」だった。この自由度の高いお題を得て、ナッシュが考えたのは19世紀末から20世紀に生まれた欧米絵画に作曲のヒントを得る手法。ジャズ100年の歴史と重なる点も、絵画選定の動機になったという。曲名が画家なので分かりやすいし、ブックレットにはそれぞれの特定の作品を創作の源泉としたことが明らかになっていて、興味を喚起する。
絵画を見て何を感じるかは十人十色。それを音楽と結びつけて、いかに作品化するかはミュージシャンの腕次第だ。イマジネーションを広げた作曲のアイデアと、オーケストレーションの書法において、ナッシュのペンは絶好の場を与えられた冴えを聴かせる。
「睡蓮」が重なる印象派的な#1、トランペット&アルトのハーモニーが別名の「柔らかい時計」を体現する#2、ジャズを主題にした画作でも有名なマティスの「ダンス」の世界をスイング・ビートに乗せた#3。「アート界のマイルス・デイヴィス」とナッシュが評するピカソ所縁の#4は、スパニッシュ・メロディを盛り込みながら、ウイントンの強力なソロをフィーチャー。心機一転と思える制作態勢によって、オーケストラの結束をさらに強めた感もある新作だ。
【収録曲一覧】
1. Monet
2. Dali
3. Matisse
4. Picasso
5. Van Gogh
6. Chagall
7. Pollock
ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラ(=リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラ) (allmusic.comへリンクします)
ウイントン・マルサリス:Wynton Marsalis(tp)
ライアン・カイザー:Ryan Kisor(tp)
テッド・ナッシュ:Ted Nash(as,fl,cl)
ダン・ニマー:Dan Nimmer(p)
2007年9月NY録音