※写真はイメージです
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 今回、小説家・長薗安浩氏が「ベストセラー解読」で取り上げたのは『地図で見る日本ハンドブック』(レミ・スコシマロ著 神田順子・清水珠代訳 原書房 2800円※税別 3000部)。

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 元号が令和になって5カ月が過ぎ、消費税が10%に上がった。人口減が続くこの国の未来が厳しいことは覚悟しているが、もう少し多面的に現状を知りたいと考え、この『地図で見る日本ハンドブック』を手に取った。

 著者のレミ・スコシマロは日本を専門とする地理学者で、フランス国立日本研究センターと日仏会館の研究員も務めている。著者は各テーマ毎にカラーの地図をいくつか紹介し、事実に基づく解説文を添えて客観的な知見を明快に提示する。

 たとえば、過疎化を扱った項目では、「日本の野生化」という日本列島の地図を紹介。人がクマに襲われたり、イノシシやサルやシカによる農作物被害を受けている地域が、いかに人口密度が低いか端的に表現している。

<うちすてられた村々は植物におおいつくされ、野生動物が跋扈(ばっこ)している。この野生化の波は大都市近郊にもおしよせている>

 人口減が野生化へと連鎖する地図に驚いたように、21世紀の日本の貧困問題の現状も、いくつかの地図の関連を見ることで理解できる。それは、失業率、若年層失業率、結核による死亡率を色別で表した列島の形を重ねてみると、一目瞭然となる。

 明るい展望を持ちたいと願うなら、まずは正確な現状把握は不可欠だ。そこには認めたくない事実も多々あるだろうが、そうやって後回しにする余裕はもうこの国にはない。この本に大量に登場する地図が冷静に、具体的に示している私たちの過去と現在を、まずは知ること。その上で、現政権が頓珍漢な政策を打ち出さないよう監視する責任が、私たちにはある。

週刊朝日  2019年10月18日号