落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「10%」。
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とうとう引っ越しの日が決まった。2012年から住まっている借家との別れの日が迫っている。やはり柄にもなく、感慨にふけっている。というか、正直、気が重い。なんか、このままでいーよーな……そんな気もしたりして。
去年から「そろそろ引っ越し時かな」と思っていた。最初は今年の春の予定だったが、「4月は年度初めで忙しい。5月はゴールデンウィークで寄席が詰まっているし、6月……いや梅雨どきは避けようか。7月頭……全国ツアーの真っ最中だ……8月? 待てよ、こんなクソ暑いときに引っ越しなんて自殺行為だ! 9月に入っても暑いしなぁ……台風も怖いし……でもなんとか早いうちに……」となんやかやで二転三転し、ようやく決定した引っ越し日が9月30日。あ、翌日が10月1日か……。
……大丈夫ですかね? なんか、カッコ悪くないですかね、私? シミッタレな人間に見えてませんかね? 上手く滑り込んだとお思いですか?「10%への消費税増税が10月1日からだから駆け込んだな、コイツ……」と思ってますよね、皆さん? これたまたまなんですよっ! 引っ越し業者と私と家族のスケジュールの折り合いのついた日が偶然、増税前日だっただけなんですよっ! 本当なんだよ、信じてよっ!
自意識過剰なのはわかっちゃいるけど、今のところ我が家の転居に関わる全ての人が『9月30日引っ越し決行』という事実を知って「一之輔は増税を避けるために、わざわざ無理して前日に引っ越すけちん坊!」と思っているに違いないのです。引っ越し業者も、不動産屋も、役所の職員も、みーんな笑ってます。新しいご近所さんも私が引っ越しの挨拶に行けば、「ふふん、この手土産の乾麺は8%の消費税で買ったモノなのね」と蔑むに決まってんだ。町内中が『8パー消費税駆け込み引っ越し野郎』と向こう5年は後ろ指をさすのです。その頃は15%になってるかもしれないのに。まだ言うかっ!?