

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「2学期」。
* * *
私が小学生の頃は、2学期は9月1日からのスタートだった。今、我が家の子供らは8月最終週から2学期が始まっているようで、恐らく9月1日のなんとも言えない胸のザワつきを知らないのだろう。8月から始まる2学期なんて2学期とは呼べないぜ、マイ・サン&ドーター。私が小学生時分の9月1日のボンヤリした思い出。何年生だったかな。
久しぶりの早起きだ。8月31日の深夜までかかって無理やりやり遂げた夏休みの宿題を手提げ袋に詰め込んで、私は家を出る。眠たいが、でも気分はどことなくハイ。睡眠不足によるものか。これから始まる長い長い2学期への憂鬱と、初日は授業がなく午前中で帰れるという嬉しさがないまぜになり、足どりはギャロップくらいなかんじ。テケレッ、テケレッ、テケレッ……と2キロある学校への道のりを急ぐ。
教室に行くと工作や自由研究を見せ合う者、今さら漢字ドリルをやっている者、友達に7月下旬の天気を聞いて日記を仕上げている者……。先生が教壇に登りひと通りの挨拶。廊下へ並ぶよう促し、体育館にむかう。始業式。夏休み明けは必ず松葉杖か、ギプスをして腕を吊っている者が一人くらいいる。ハメを外しすぎたのだろう。体育座りをしながら、ギプスの中から漂ってくる汗の臭いを嗅ぎ続けるヤツ。それを友達に嗅がせるヤツ。校長の話は誰も聞いていない。転入生の紹介。指定ジャージの購入が間に合わなかったのか、前の学校のジャージで恥ずかしそうにしている。これ以上ないくらいのオレンジのジャージ、たぶん最初のアダ名は「夕刊フジ」。