巨匠性を増しているホランドの新作
Pathways / Dave Holland
デイヴ・ホランドの活動から目が離せない状態が続いている。昨年初アルバムがリリースされて話題を呼んだモンタレー・クァルテットでは、実質的な中心人物としてオールスターズを牽引するリーダーシップを発揮した。自身のウエブサイトでは興味深いサーヴィスを提供。ビル・フリゼール、デイヴ・ダグラスらすでにダウンロード限定作をリリースしているジャズマンと同様の方法だが、画期的なのはフル・アルバム同様の収録時間ながら、わずか1ドルという販売価格。日本でiTunesからダウンロード購入するのと同じ感覚で、ぼくも利用することができた。
この新作はホランドが2005年に立ち上げたレーベル“Dare2 Records”からの第4弾だ。過去作に関しては業界最大手のユニバーサルが世界配給をしており、ホランドがアーティストとビジネスを両立させている巧みな戦略も浮き彫りになる。あくまでも自身の創造性を優先しながらアルバム制作を行い、スムーズな流通を実現させる姿勢は、今の世の中の動きに沿っていて評価したい。前置きが長くなったが、本作はNY“バードランド”でのライヴ。同店関連では2001年録音のビッグ・バンド・ライヴ作がリリースされている。
このオクテットは近年の2つのユニットを合体させたような編成だ。編成に応じたアンサンブルの活かし方を熟知するホランドの作・編曲が冴える。5管ゆえに様々な組み合わせが可能となり、ホランドの得意技であるソロイストと他のメンバーとのコール&レスポンスがステージを華やかにする。
一枚看板クラスの実力者たちが競ってフィチャーされる贅沢さに加えて、それらハイ・レヴェルな個人技の応酬がホランドの書法と理想的に合体。随所でスリリング極まりない場面を現出している。ビッグ・バンド的なサウンド・コンセプトを8名で実現させる上でキー・マンとなるリズムの要を担うドラマーにも注目したい。おそらく本バンドで最年少と思われるネイト・スミスは、近年顕在化しているNY派若手黒人ドラマーの新しい波を体感させてくれるテクニシャンであり、バンドを鼓舞しドライブさせる力量はさすがホランドが見込んだだけのことはあると納得できる。近年とみに巨匠性を増しているホランドのディスコグラフィーに、また新たな力作が加わった。
【収録曲一覧】
1. Pathways
2. How’s Never?
3. Sea Of Marmara
4. Ebb And Flow
5. Blue Jean
6. Wind Dance
7. Shadow Dance
デイヴ・ホランド:Dave Holland(b) (allmusic.comへリンクします)
ロビン・ユーバンクス:Robin Eubanks(tb)
クリス・ポッター:Chris Potter(ts,ss)
アントニオ・ハート:Antonio Hart(as,fl)
2009年1月NY録音