フレンチ・スウィート/トマス・サヴィー
フレンチ・スウィート/トマス・サヴィー
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ビル・スチュワート参加作は要チェック、本年度屈指の重要作。
French Suite / Thomas Savy

 フランスの新世代管楽器奏者である。トマス・サヴィーは90年代からパリを拠点にプロ活動を始め、スモール・グループからビッグ・バンドまでの様々な編成で腕を磨いた。これまでにクリスチャン・エスクーデ、リック・マーグッツァ、デヴィッド・エル=マレク、ジュリアン・ルローとの共演歴があり、あのデヴィッド・サンボーンからも才能を高く評価されている。

 今回紹介するのはサヴィーの最新セカンド・アルバムだ。2006年リリースの初リーダー作『Archipel』は本人のバスクラリネットに、ギター、ピアノ、ベース、ドラムスが加わったクインテットで、オリジナル曲中心の構成。これ以前の参加作ではテナー・サックスも吹いていたサヴィーがバスクラに専念したことで、個性を打ち出すポリシーが感じられた。

 そして約4年後の本作はバスクラ1本の姿勢を保ちながら、3つの新しいアイデアを盛り込んでいる。まず編成がトリオであること。管楽器のリーダーがベース&ドラムスの2リズムだけを共演者に選んだトリオは、50年代にソニー・ロリンズが金字塔を打ち立てて以降のジャズ史の流れを参照すれば、サヴィーの覚悟が伝わってくる。しかも前作から抜けたのがギターとピアノであり、共にハーモニーを奏でられる楽器を今回のバンドから外した事実が、サヴィーの新しいバンド・コンセプトを裏打ちする。

 メンバーに関してもがらりと入れ替えており、欧州人で固めた前作に対して、今作は実力派ニューヨーカーの2人を迎えたNY録音。コリーとスチュワートはリズム隊を組む機会が多い売れっ子であり、この編成で自分の音楽を表現するための最上のセッティングに賭けるサヴィーの決意に改めて納得できる。

 プログラムは7パートの8曲からなる表題組曲を中心に、エリントンとコルトレーン・ナンバーを点在させた内容だ。

 アルバムを通して聴いたぼくの第一印象は、ジャック・ディジョネット『スペシャル・エディション』だった。

 30年前にデヴィッド・マレイのバスクラとディジョネットのドラムスとの強力なコンビネーションで、80年代ジャズ・シーンの指針を示した名作を想起させたのである。

 サヴィーが同作を意識したかどうかはともかく、ここでの自由奔放なプレイは欧州人的な知性ばかりでなく米国黒人特有の肉体性をも自分のものにした衝撃の連続だ。そして本作の価値を高めたのがスチュワートの力演。日常的にこなしているレコーディング・セッションの1つ、というとらえ方ではない、本気度満点の演奏が画期的な成果をもたらしている。スチュワート参加作は要チェック、を実証する本年度屈指の重要作だ。

【収録曲一覧】
1. Part 1 - Ouverture
2. Part 2 - Ignition
3. Part 3 - Atlantique Nord
4. Part 4 - E & L
5. Part 5 - My Big Apple
6. Part 6 - Stones
7. Part 7 - Ballade De Stephen Edward
8. Come Sunday
9. Part 8 - L & E
10. Lonnie’s Lament

トマス・サヴィー:Thomas Savy(b-cl) (allmusic.comへリンクします)
スコット・コリー:Scott Colley(b)
ビル・スチュワート:Bill Stewart(ds)

2009年6月NY録音