東日本大震災をテーマにした本はたくさん出ていますが、そこまで描き切れた作品はまだない、と思います。僕も悩みながらですが、ほんとに一行一行、これでいいのか、と考えながら書いているところです。

――17年、作家・浅田次郎さんの後を受け、日本ペンクラブ会長に就任。たいへんな時期に引き受けた、と実感している。

「理想や理念で始まった社会は2世代半で終わる」と思っています。人が社会の中心となって活躍できるのが30年間とすると、2世代半は75年ですね。「半」というのがミソで、つまり、孫たちが中心世代になると、世の中がおかしくなるということ。ソ連はロシア革命から74年で崩壊、アメリカは建国してから八十数年後に内輪もめを始めて南北戦争になった。日本も明治維新から七十数年後、焦土となって敗戦です。

 そして今年は敗戦から74年ですね。祖父母の世代が命からがら体験したことがたんなる情報になって、どんどん、その意味が薄れている。

「あいちトリエンナーレ2019」で「表現の不自由展・その後」が中止に追い込まれたのもその一つ。ネットの情報だけで「嫌韓・嫌中」だと言い合っている風潮を見ていると、危ないな、と思います。

 こんな時代だからこそ自分で経験して知る、という姿勢を大切にしてほしい。

 若いころ、頭デッカチ状態から“脱走”し、奔走してきた僕なりにできることが、まだもう少しあるかな、と思っています。

(聞き手/本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2019年9月20日号