イマジン・プロジェクト/ハービー・ハンコック
イマジン・プロジェクト/ハービー・ハンコック
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世界には素晴らしいミュージシャンがたくさんいるというメッセージ
The Imagine Project / Herbie Hancock

 本年度屈指の話題作であることは間違いない。前作『リヴァー』が2007年度グラミー賞《最優秀アルバム賞》にノミネート。それだけでも名誉なことだが、大方の予想を覆して全ジャンル対象の同賞を獲得したのだから、これはジャズ史に残る出来事だと大騒ぎになったのは周知の通りだ。何しろジャズ・ミュージシャンが同賞を受賞したのが、64年度の『ゲッツ/ジルベルト』以来、実に43年ぶりだったのだから無理もない(《コンテンポラリー・ジャズ》部門も同時受賞)。グラミーの節目でもある第50回開催年度の受賞者となったことも、価値を高めた。音楽家としてのステージをさらに押し上げたハービーの、次の展開に世界中の注目が集まる中、3年間を経てリリースされるのが本作というわけである。

 さぞかし重圧がかかっていたことだろう。ハービー自身がそれを意識したかどうかはわからないが、その難題を容易にクリアでき、しかも多くの人々から共感を得られるアルバム・コンセプトが立案された。

「世界規模での協力がもたらす平和への美しき道筋の威力と素晴らしさを示す試み」(ハービー)。

 自己の人脈をフルに活用して多彩なジャンルのミュージシャンを起用し、世界各地でのレコーディングを重ねて完成させたアルバムだ。同時に映像作品の制作も行われたことを含めて、グローバルな視点を導入した全体のプロジェクトは、進取の精神に富むハービーらしい内容と言える。

 70~80年代は鍵盤楽器の技術革新と同期する形で、ジャズ/フュージョン・シーンの最先端を走った。その後のハービーはキーボードそのものの可能性を追求するのではなく、他ジャンルのミュージシャンとの交流を深めながら総合的なサウンド・プロデューサーとして自己演出する道を歩んできた。

 本作はアヌーシュカ・シャンカール、シール、ピンク、ジョン・レジェンド、フアネス、ジェフ・ベック、デイヴ・マシューズ、デレク・トラックス、チャカ・カーン、ティナリウェン、ロス・ロボス、インディア・アリー等々、協力者の名前のリストが名シェフ=ハービーの卓越した腕前を期待させ、それを裏切らない仕上がりになっている。1曲ごとに解説すれば紙数が足りないが、ジェームズ・モリソン歌唱曲#9のハービー・トリオや、ラヴィ・シャンカールの娘アヌーシュカ+ウェイン・ショーターの#10におけるシタール~ソプラノサックス~ピアノの掛け合いなど、ジャズ・ファンにも興奮が必至の場面があるのでご安心を。全曲ヴォーカル・ナンバーで、前作に引き続きカヴァー曲集であることが、オリジナル曲を期待する向きには気になるポイントか。ジャズ・ファンの立場からすると、本作は世界では素晴らしいミュージシャンがたくさん活躍している、とのハービーからのメッセージだと受け止めるべきだと思う。

【収録曲一覧】
1. Imagine
2. Don’t Give Up
3. Tempo De Amor
4. Space Captain
5. The Times They Are A Changin’
6. La Tierra
7. Tamatant Tilay / Exodus
8. Tomorrow Never Knows
9. A Change Is Gonna Come
10. The Song Goes On

ハービー・ハンコック:Herbie Hancock(p,key) (allmusic.comへリンクします)
ジェフ・ベック:Jeff Beck(g)
ウェイン・ショーター:Wayne Shorter(ss)
マーカス・ミラー:Marcus Miller(b)
シール:Seal(vo)
チャカ・カーン:Chaka Khan(vo)
ティナリウェン:Tinariwen(group)

2010年作品

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