クワイエット・インレット/フード
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北欧から、予想外の収穫
Quiet Inlet / Food

 5月下旬に西ノルウェー、フィヨルド地帯北端の都市ベルゲンで開催されたフェスティヴァル「Nattjazz」。昨年に引き続き、全11日間の会期のうち、初日から3日間の取材を行った。

 英語で「Nightjazz」を意味するジャズ祭は1973年に創設された“元祖・夜ジャズ”。通常のフェスティヴァルに比べると遅めの午後9:00開演、が特色である。事前にプログラムをチェックしていたアーティストに関して、期待通りのステージを体感できたのは当然として、予想外の収穫がいくつかあったのが、自分にとっての特記事項となった。

 その1つがノルウェー人ドラマーのトーマス・ストローネンだった。今回の同祭でストローネンは2日目のマリア・カネゴール(p)・トリオと、3日目のビヨルン・クラーケッグ(g)率いるトリオ=ニードルポイントの一員としてプレイ。両ユニットの音楽性がかなり異なるとは言え、これほどの振れ幅を持つテクニシャンなのだなと再認識させられた。そこで渡欧直前にリリースされた本作を、本稿で紹介したいと思った次第だ。

 フードは1998年に英国人サックス奏者イアイン・バラミーをリーダー格として、ノルウェー人3名と結成された。2004年までに4タイトルをリリースした後、バラミー&ストローネンのデュオ・チームに再編し、2007年にはカネゴールらをゲストに迎えたアルバムをリリース。

 本作は通算第6弾にして、心機一転のECM移籍作である。80年代の英国発ニュー・ムーヴメントのトップ・ランナーだったバラミーが、ノルウェー新世代のストローネン(1972年生まれ)と出会い、北欧の新感覚派とのコラボレーションを通じて育んだサウンドが、この新作でさらに成熟度を増したと理解できる。ストローネン側から見るとアルバム・カヴァーに、ダブル・リーダーと分かる形でクレジットされ、サウンド面でもドラマーにとどまらない活躍を示していることで、ステージ・アップにつながったことは疑いない。

 初期メンバーのアルヴェ・ヘンリクセンと出身国と楽器が同じではあるが、キャラクターが異なるニルス・ペッター・モルヴェルの起用は、10年間のバンド活動によるサウンド・コンセプトの変化に合致した、最適の人材を得た格好となった。もはやノルウェー新世代の定番と言っていいエレクトロニクスの巧みな使用と、ジャズ、即興演奏、アンビエントが融合した音作りは、作品名に象徴される空気感を表現していて、北欧産ならではの現在進行形シーンの反映と受け止められる。同国のRune Grammofonでの3枚を経て、同国との所縁深いドイツの名門レーベルに至ったのが必然だと思える最新作だ。

【収録曲一覧】
1. Tobiko
2. Chimaera
3. Mictyris
4. Becalmed
5. Cirrina
6. Dweller
7. Fathom

フード (allmusic.comへリンクします)
イアイン・バラミー:Iain Ballamy(ts,ss)
トーマス・ストローネン:Thomas Stronen(ds,live-electronics)
ニルス・ペッター・モルヴェル:Nils Petter Molvaer(2.4.5.6.:tp,electronics)

2010年作品

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