会社側が強気でいられるのにはわけがある。岡本社長の会見では、情報開示の遅れや経営トップのパワハラ発言などが次々に判明した。普通の上場企業であれば株主や消費者から批判を浴びて、経営トップが引責辞任するレベルだ。
だが、吉本は非上場企業で株主はテレビ局などに限られる。企業イメージが大事なはずの芸能会社だが、消費者とは直接取引しておらず、テレビ局などから所属芸人が閉め出されない限り、経営に大きな影響は出ない。
普通の企業なら社員や労働組合が声を上げることもできる。仮に社員が社長批判をしても、法律で権利が守られているため、すぐにクビにすることはできない。これに対し吉本の芸人は雇用契約ではなく専属契約。6千人もいる芸人の大半は口頭による契約で、いつ仕事をまわしてもらえなくなるかもわからない不安定な立場だ。
契約を打ち切られると、ほかの芸能会社に移って仕事を続けるのは簡単ではない。芸能界では独立したタレントをテレビ出演させないよう会社側が圧力をかけたり、テレビ局側が会社側に忖度(そんたく)したりする事例が横行している。加藤が声を上げても続く芸人が少なかったのは、会社側に刃向かいにくいこうした事情があった。
吉本興業関係者はこう自信を示す。
「加藤に続いて複数の芸人が辞めるのではという臆測も出ていましたが、そんなことはありません。会社として地道に改革していくことで、信頼を回復していきます」
吉本は契約書がないことについては、公正取引委員会の指摘も受けて、希望者には改めて契約書を交わす方針だ。専門家による経営アドバイザリー委員会も設置し、来週にも初会合を予定している。コンプライアンスやギャラの問題などを議論してもらい、改革姿勢をアピールする狙いだ。