●ジャズの中でも、幅広いジャンルを聴くことで見えてくるものがある
前回も書いたことだが、ジャズ・ファンといっても今ではその大半が“モダン・ジャズ”ファンで、スイング、ニューオルリンズにまで手を出す人は少数派だ。また、その方たちはせいぜいハード・バップ、モード止まりで、フリー、エレクトリックまで聴いている人は本当にジャズが好きな人だろう。私が駆け出しの頃、どのくらい幅広く聴いているかが一種のステータスとされていたが、これは真実を突いていると思う。いろいろ聴くと見えてくるものも多い。
●デューク・エリントンは、濁り酒
などと偉そうなことを書いたが、私自身その壁を破るのに苦労した。中でも一番わかりにくかったのがデューク・エリントンだった。聴き所がつかめない。同じビッグ・バンドでもカウント・ベイシーの気持ちよさは誰にでもわかるが、エリントン・ミュージックはブルーチーズではないけれど、大人の味で癖がある。
そんな時私に、これがエリントンの一番良い時代、といって教えてくれた年下の友人がいた。その当時はブラントンもウェブスターも意味不明で、何で他人の名前が付いているのかいぶかしく思ったほどだった。酒を酌み交わしつつ彼が言うに、エリントンの魅力は酒で言えば濁り酒、絵で言えば分厚く絵の具を塗り重ねた油絵ですねというようのことを言ったのだった。
つまりエリントン・サウンドは、当時注目を集めていたECM録音の透明さの対極にあるダークな濁り感が特徴であり、それは日本の墨絵のような淡白な色合いではなく、さまざまな色調が混ざり合って出来る特殊カラーなのである。このことをエリントン自身がバンド・メンバーを絵の具に、自分を絵書きになぞらえて語っているのを何かで読んだ記憶がある。
●長期に渡って活躍したエリントン楽団の最も優れたメンバーが在籍していた
こうした言葉によるガイドラインは重要で、“ハード・バップ耳”でフレーズを追うのではなく、それぞれが個性的なバンド・メンバーが織りなすバンド・サウンドの色彩感を楽しむようにすると、彼らが抜群のスイング感を身につけていることも見えてきた。
このアルバムは、長期に渡って活躍したエリントン楽団が最も優れたメンバーを抱えていた時期といわれる、1940年から42年にかけての録音を集めたもので、ブラントンはベーシストのジミー・ブラントン、ウェブスターはテナー奏者、ベン・ウェブスターのことで、彼らが在籍したデューク・エリントン・バンドという意味である。
他にもトランペットのクーティ・ウイリアムス、コルネットのレックス・スチュアート、トロンボーンにはトリッキー・サム・ナントン、ローレンス・ブラウン、そしてバーニー・ビガードがクラリネット、ジョニー・ホッジスがアルト、ソプラノ、クラリネットを持ち替え、ハリー・カーネイがバリトンに控えるという鉄壁の布陣だ。エリントン自身はピアノと作曲アレンジを担当し、ビリー・ストレイホーンも作曲アレンジを行なっている。
●生い立ちと功績
いまや前々世紀末となってしまった1899年、ワシントンDCに裕福な黒人子弟として生れたエドワード・ケネディ・エリントンは、その品の良さから「デューク(公爵)」と仇名された。彼は1927年から31年にかけニューヨーク、ハーレム地区にあった「コットン・クラブ」に出演し、ビッグ・バンド・リーダーとしての名声を確立させる。1933年にはイギリスを訪れ、皇太子兄弟の前でバンドを披露し賞賛を受け、ヨーロッパの上流階級にジャズを知らしめた。第2次大戦後もデューク・エリントン楽団を率いて活躍し1974年に癌のために死去。多くのジャズマンに敬愛されたエリントンだが、ジャズが単なる芸能ではなく、鑑賞に与えうる音楽であることを最初に多くの人々に示したのは彼の最大の功績だろう。
【収録曲一覧】
『ザ・ブラントン・ウエブスター・バンド』(RCA)
ディスク:1
1. ユー・ユー・ダーリン
2. ジャック・ザ・ベア
3. コ・コ
4. モーニング・グローリー
5. ソー・ファー・ソー・グッド
6. コンガ・ブラヴァ
7. コンチェルト・フォー・クーティ
8. ミー・アンド・ユー
9. コットン・テイル
10. ネヴァー・ノー・ラメント
11. ダスク
12. ボジャングルズ
13. バート・ウィリアムズの肖像
14. ブルー・グース
15. ハーレム・エアー・シャフト
16. アット・ア・ディキシー・ロードサイド・ダイナー
17. オール・トゥー・スーン
18. ランパス・イン・リッチモンド
19. マイ・グレイテスト・ミステイク
20. セピア・パノラマ
21. ゼア・シャル・ビー・ノー・ナイト
22. イン・ア・メロトーン
23. ファイヴ・オクロック・ホイッスル
24. 燃える剣
25. ウォーム・ヴァレー
ディスク:2
1. アクロス・ザ・トラック・ブルース
2. クロエ
3. アイ・ネヴァー・フェルト・ジス・ウェイ・ビフォー
4. ニューヨークの舗道
5. フラミンゴ
6. ザ・ガール・イン・マイ・ドリームズ
7. A列車で行こう
8. ジャンピン・パンキンス
9. ジョン・ハーディの妻
10. ブルー・サージ
11. アフター・オール
12. バキフ
13. アー・ユー・スティッキング
14. ジャスト・ア・シッティン・アンド・ア・ロッキン
15. ザ・ギディバッグ・ギャロップ
16. ピター・パンサー・パター
17. ボディ・アンド・ソウル
18. ソフィスティケイテッド・レディ
19. ミスター・J・B・ブルース〈別テイク〉
20. コ・コ
21. ボジャングルズ
22. セピア・パノラマ
23. ジャンピン・パンキンス
24. ジャンプ・フォー・ジョイ
ディスク:3
1. チョコレート・シェイク
2. ガット・イット・バッド
3. クレメンタイン
4. ザ・ブラウンスキン・ギャル
5. ジャンプ・フォー・ジョイ
6. ムーン・オーヴァー・キューバ
7. ファイヴ・オクロック・ドラッグ
8. ロックス・イン・マイ・ベッド
9. ブリ・ブリップ
10. 雨切符
11. ホワット・グッド・ウッド・イット・ドゥ
12. どんなブルースが
13. チェルシーの橋
14. パーディド
15. Cジャム・ブルース
16. ムーン・ミスト
17. ホワット・アム・アイ・ヒア・フォー
18. アイ・ドント・マインド
19. サムワン
20. マイ・リトル・ブラウン・ブック
21. メイン・ステム
22. ジョニー・カム・レイトリー
23. ヘイフット・ストローフット
24. センチメンタル・レディ
25. スリップ・オブ・ザ・リップ
26. シャーマン・シャッフル
デューク・エリントン:Duke Ellington (allmusic.comへリンクします)
→1899年4月29日 - 1974年5月24日