シルヴァー・ポニー/カサンドラ・ウィルソン
シルヴァー・ポニー/カサンドラ・ウィルソン
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ジャズ・ヴォーカルの女王の2年ぶりの新作
Silver Pony / Cassandra Wilson

 カサンドラ、2年ぶりの新作である。本年6月に来日した時は、7月に国内リリースがアナウンスされていたのだが、実現しないまま時間が過ぎていた。その後、若干の日本先行という形で11月上旬に無事リリース。カサンドラの最新の姿が広く明らかになった。

 アルバム名は子供時代の出来事に由来する。当時住んでいたミシシッピ州ジャクソンに、小馬を引き連れた写真サーヴィスの男がやって来た時、カサンドラは母親の許しを得て乗馬姿の写真撮影を行った。この幼い時の印象深い経験が、本作の制作コンセプトになったという。

 過去に例がない点では、スタジオ録音とライヴ音源を組み合わせた構成が斬新だ。60年代のジョン・コルトレーンや70年代のマイルス・デイヴィスの前例があるので、ジャズ的には目新しいわけではない。カサンドラにはレギュラー・メンバーでのステージでできることと、ニューオリンズでのスタジオ・レコーディングの両者を編集することによって、今の自分を表現したいとの意図があったのではないだろうか。両者のバンド・メンバーがほぼ同一であることが、そのアイデアを物語る。80年代初めに1年間ニューオリンズに住んだ経験があるカサンドラは、2009年に入って同地へ引っ越しており、現在のホーム・タウンでの録音にこだわりを持っていたようだ。

 アルバムは最初の3曲がライヴ。スタンダード曲#1はピアノとドラムスをフィーチャーし、ヴォ-カルとバンド・サウンドが一体化した形を打ち出している。歌手と伴奏者たちの関係から、さらに踏み込んだ演奏だ。#2はルイ・アームストロングやキャブ・キャロウェイの定番曲だが、これほど黒いグルーヴが渦巻くヴォーカル・ヴァージョンは聴いたことがない。以上2曲は前作『ラヴァリー』にも収録されており、趣を変えたアプローチのライヴ音源と言える。インストゥルメンタルの#3に編集でつなげてスタジオ録音の#4へと進行するのは、アルバム・コンセプトの利点を活用した好例。#4のみ参加のラヴィ・コルトレーンは期待に違わぬプレイで、これもスタジオのメリットだ。続くライヴの#5にフェイド・インし、カサンドラの曲紹介から演奏が始まる構成もいい。ラストの#11はジョン・レジェンド(vo,p)との初共演曲で、ボーナス・トラック的な味わいのあるバラード。ジャズ・ヴォーカルの女王の座に安住せず、深化を続けるカサンドラの今を聴いてほしい。

【収録曲一覧】
1. Lover Come Back To Me
2. Went Down To St.James Infirmary
3. A Night In Seville
4. Beneath A Silver Moon
5. Saddle Up My Pony
6. If It’s Magic
7. Forty Days And Forty Nights
8. Silver Pony
9. A Day In The Life Of A Fool
10. Blackbird
11. Watch The Sunrise

カサンドラ・ウィルソン:Cassandra Wilson(vo,syn,bass drum) (allmusic.comへリンクします)
マーヴィン・スーウェル:Marvin Sewell(g)
ハーリン・ライリー:Herlin Riley(ds)
ラヴィ・コルトレーン:Ravi Coltrane(ts)

2009年11,12月スペイン、ニューオリンズ録音