『クンビア&ジャズ・フュージョン』(Atlantic)
『クンビア&ジャズ・フュージョン』(Atlantic)
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●ちょっとアクが強すぎる?

 正直に言って、チャールス・ミンガスはあまり好きなミュージシャンではなかった。圧倒的個性、力強さを認めるにやぶさかでないが、ちょっとアクが強すぎるように思えた。もっとも、同じアクの強さでも、ベン・ウエブスターのスス、スーと空気の漏れるサブトーンなどはさほどイヤではない。芸のうちとして楽しめる。ミンガスの場合は押し付けがましさを感じてしまったのだ。これは私の個人的ジャズ観というか、趣味の問題かもしれない。キマジメなコルトレーンよりレスターの粋を称揚する感覚だ。

 とは言え、やはりミンガス・ュージックの良いところは素直に受け取るべきで、それなりに彼のアルバムを聴き込んだ結果、世間的にはあまり評価されていない後期のアルバムにたどり着いた。これは想像だけど、若い頃のミンガスは必要以上に肩肘張っていたように思う。もちろん当時の黒人のおかれた社会環境を考えればそれも当然で、どうこう言う方が間違っている。

 それが晩年になると、世間の評価も高まり、彼もようやく余裕を持って自分の音楽を世に問うことが出来るようになったのではないか。確かにドルフィーはじめ、往年の腕っこきはいなくなったかもしれないが、コンポーザー、バンドリーダーとしての力量はむしろ円熟を迎え、アクがコクとして楽しめるようになったと言うわけだ。

●デューク・エリントンの影響

 ご存知のようにミンガスは、ジャズとアートを最初に結び付けようとした巨人、デューク・エリントンの影響をモロに受け、彼のようになりたいと願ってきた。そうした彼の壮大な狙いが、気負い無く実現したのが晩年のこの作品ではなかろうか。

 鳥の鳴き声で始まる演奏は、まさに南国の楽園をイメージさせる快楽的旋律で幕を開ける。そのユートピアに突如裂け目を入れるのがミンガスのズ太いベース・トーンだ。そして音楽はエキゾチックであると同時にダイナミック極まりない、ミンガス・ミュージックの世界に突入する。そしてミンガスお得意の喚き声が交錯する後半の盛り上がり。このあたりの展開は実に巧い。余裕でメンバーをコントロールし、聴き手を自分の懐に巻き込んでしまう。

 ソロイストも悪くない。ホンのちょっぴり哀愁を感じさせるジャック・ワルラスのトランペットと、力強くストレートにメロディを歌い上げるテナーのリッキー・フォードは、70年代ミンガスのバンド・カラーの屋台骨を背負っている。このアルバムあたりをきっかけとして後期のミンガス・バンドを見直されてみてはいかがだろう。

【収録曲一覧】
1. クンビア&ジャズ・フュージョン
2. “トド・モード”のテーマ

チャールズ・ミンガス:Charles Mingus (allmusic.comへリンクします)

ベーシスト・コンポーザー・バンドリーダー / 1922年4月22日 - 1979年1月5日