段が進むほど段差は高くなり、前の段に戻りにくくなるため、歩行の維持が非常に重要となる。

「最初の一段さえ下りなければ、QOL(生活の質)を保てる。医療費がかかり始めるのも、この階段を下り始めてから。健康寿命と平均寿命にギャップがある日本こそ、足と歩行のプロフェッショナルの足病医が必要なんです」

 もう一つは、初期の医療的介入なら、コストが非常に小さく済むから。糖尿病が進行して足の切断が必要になり、大きなコストがかかることもある。しかし、その最初のきっかけは正しい爪切りを知らなかったこと、というケースも少なくない。

「たとえば、がんの治療なら半年、1年の寿命を延ばすために数千万円という膨大なお金をかけるでしょう。足病医学であれば、はるかに低額の数千~数万円程度の介入で歩行習慣が変わり、5年、10年と寿命が延びる。歩行に関するいろんなものが改善されて、その人の人生を変える。これを知っているのといないのとでは、すごく大きな差になります」

 久道医師がもともとリウマチを専門としていた下北沢病院を、「足の総合病院」にしたのは3年前。「まずは足病医療を知ってもらいたい」という思いだった。狙いどおり、若手の医師が研修医として次々に学びに来ているという。また、希望者が随時参加できる足の検診を実施している。異常なしという人はほぼいないそうだ。

「足は“虐げられた臓器”です。ほかの臓器に比べて無視されているし、過酷な状況で歩行を続けていてもそれが当たり前だと思われている。半年も痛みが続いてから耐えきれずに来院する人もいますが、これが腹部だったら半年も耐えるでしょうか? おそらく、歩行移動って本当に生活のベースなので、休ませられずに、痛いまま歩き続けてしまうのでしょう」

 久道医師によると、足の寿命は50~60年。すでにその年を超えているなら、足に何か起こっていると考えたほうがよい。痛みに気づかず生活している人も多いというが、では、どうやって足の異常を調べればよいのだろう?

「お風呂に入る時に、自分の足を見ましょう。痛いところ、かゆいところはないか。皮膚の色はどうか。皮が細かくむけていないか。タコや魚の目はないか。触ってみて、やけに冷たくないか。むくんでないか。そして、左右非対称になっていないか。見る習慣をつければ、それは必ずあなたを救います」

 まずは風呂場で、自分の足の診断から始めよう。

週刊朝日  2019年7月12日号