ことに公演の最後に歌われたウディ・ガスリーの「我が祖国」は、アメリカを作ったのは国家ではなく民衆だったというウディのメッセージを伝える。
リハーサルのみにとどまったインプレッションズの「ピープル・ゲット・レディ」などのカヴァー曲は、メッセージへの共感と同時に、ソウル/ゴスペルへの関心を物語る。
ディランの曲では、歓声が沸き起こるジョーン・バエズとのデュエットの「風に吹かれて」や「アイ・シャル・ビー・リリースト」などの一方、歌詞を改めた「ブルーにこんがらがって」などソロの弾き語りも披露した。
殺人罪で投獄中だったボクサーのルービン・“ハリケーン”・カーターの無実を訴えた「ハリケーン」は、歌詞に誤認があるとされた初期ヴァージョンも収録されている。それに呼応するようにメイドの黒人女性が殴り殺され、加害者が軽い刑ですまされた事件をもとにした「ハッティ・キャロルの寂しい死」、60年代初期の冷戦時代のキューバ危機などを背景にした「はげしい雨が降る」など、封印していたプロテスト・ソング、トピカル・ソングをハード・ロック・アレンジでよみがえらせている。
怒りの矛先を自らに向け、もどかしい心情を表現したと思えるのが、ディランと関わりのある女性が浮かび上がる曲だ。当時の妻サラとのぎくしゃくした関係を背景にしたと語られた『血の轍』からの曲に加え、ツアーで初披露された「サラ」では妻への未練が歌われている。第2期のツアーでは皮肉を込めた「愚かな風」を歌った。
「いつもの朝に」や「ママ、ユー・ビーン・オン・マイ・マインド」は恋人だったスーズ・ロトロとの関係が背景にある。
ツアーで初披露された「オー・シスター」はジョーン・バエズが書いた「ダイアモンズ・アンド・ラスト」へのアンサー・ソングだったとされるなど因縁のあった二人だが、親密でリラックスした表現を見せるなど息のあったハーモニーを披露している。ツアーでのハイライトのひとつだ。
ローリング・サンダー・レヴューでのディラン、ことにその第1期は、65年から66年にかけて、ロックへの転向への批判の声に向けた敵意を丸出しにした“怒り”とは異なる。世に問い、自らに向けた“怒り”をあらわにしたものだ。時に濃密で情感のこもった表現も見せるが、基本的には冷静で理知的だ。70年代半ばに新たな絶頂期を迎えた姿を伝える貴重なボックス・セットである。(音楽評論家・小倉エージ)
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