
The Crossing / Eumir Deodato
フュージョン系のビッグ・ネームにあって、デオダートは特別な存在だ。1974年の初来日公演はぼくにとって初めて観たジャズ・コンサート。2時間ノン・ストップのステージは、大人の音楽に生で触れた中学生にはインパクトが強烈だった。自分がジャズ~フュージョンの奥深い魅力に引き込まれるきっかけとなったデオダートが2度目に来日したのは、実に32年を経た2006年のこと。<ラプソディ・イン・ブルー>を皮切りに、<旋風><輝く腕輪とビーズ玉>等の代表曲を演じ、アンコールでは<ドゥ・イット・アゲイン>で締めくくった大満足のコンサートとなった。
本作は2007年リオデジャネイロ録音のトリオ・ライヴ作に続くスタジオ作だ。現在イタリア在住のデオダートは来日公演でも同国のミュージシャンを帯同しており、今回はミラノのスタジオを拠点にプロジェクトが組まれている。
まず作曲と基本の音作りでは同国の人気ファミリー・ユニット“ノヴェチェント”のメンバーを起用。そこにゲストを迎えて曲を完成させたプログラムだ。アル・ジャロウ歌唱曲#1はクラブ・ユースにも対応しながら、エレピのデオダート節も聴かせてくれて、早くも長年のファンには堪らない展開。同時にジャロウが90年代初頭に取り組んだニュー・ジャック・スウィングをも想起させるとあって、ツボを押さえた職人芸に御礼を言いたくなる。ジャロウとノヴェチェントの女性歌手が共演した#2は、ボサ・フィールの曲調がライト&メロウ。ロンドンビートとジョー・ザヴィヌル関係者パコ・セリー参加のファンク・ナンバー#3は、『デオダート2』収録曲<スーパー・ストラット>を管楽器編曲に援用し、アース・ウィンド&ファイア風味を加えた楽しいトラック。ジョン・トロペイと言えば、70年代のデオダート作で活躍し、初来日にも同行したギタリストだが、本作での再会もファンには嬉しい。コンテンポラリーなアレンジのスタンダード曲#6は電気鍵盤独奏に続いてギター・ソロが続く構成で、ベーシック・トラックを踏まえてNYのトロペイが音を加えた制作。遠隔合成だとわかっていても、このリユニオンは福音だ。トロペイと同じくデオダートの70年代CTI作に参加したビリー・コブハム協賛曲#7は、ブリティッシュ・ジャズ・ファンク的な趣もあり、新味とも言える。アイアートのパーカッションとストリングスが織り成す#8は、現代的なブラジリアン・サウンドと聴いた。新旧のファンにアピールすること間違いなしの秀作だ。
【収録曲一覧】
1. Double Face
2. I Want You More
3. The Crossing
4. Night Passage
5. No Getting Over You
6. Summertime
7. Rule My World
8. Border Line
9. Double Face (Radio Mix)
エウミール・デオダート:Eumir Deodato(key) (allmusic.comへリンクします)
アル・ジャロウ:Al Jarreau(vo)
ジョン・トロペイ:John Tropea(g)
ビリー・コブハム:Billy Cobham(ds)
アイアート・モレイラ:Airto Moreira(per)
2010年度作品