
安楽死を扱うシーンの撮影が始まったとき、現場にいた誰もが一斉に口をつぐんだ。死という概念に向き合う瞬間、静寂があたりを支配した。
「これは、共同作業の醍醐味でもあるんですが、何か、大事なテーマを扱ったとき、その場所に参加していた人の気持ちが、一斉に研ぎ澄まされることがあります。本番前も、『この語尾はこう変えたほうが』とか、『このときの視線は』とか、一般の視聴者が見たら、細かすぎるようなことにまでとことんこだわって、いいものを作り上げようと必死になっている。頑張って覚えたセリフだって、OKが出てしまえばもう二度と使えない。でもそうやって無我夢中になっているときが、俳優としてものすごくイノセントになれている、ある種神聖な時間だと感じます」
「連続ドラマW 神の手」は、終末期医療における安楽死の是非を問う医療サスペンスである。椎名桔平さんが演じるのは外科医・白川泰生だ。
「白川は、がん患者を安楽死させたことで、激流にのみ込まれていきます。彼は決してスーパードクターじゃない。でも、だからこそ、『自分だったら?』と自分に照らし合わせて、人間の限界について考えられる、ある意味でピュアさを保ち続けている医師なんだと思います。重いテーマのドラマですが、視聴者の方も、こういう作品に触れることで、終末期医療に対する自分の考えを明確にすることができるはず。誰にでも起こりうる未来の話ですから、まずは、そこに目を向けてみることが大事なんじゃないかと思いますね」