44歳の長男を刺殺する事件が起きた熊沢英昭容疑者の自宅=東京都練馬区 (c)朝日新聞社
44歳の長男を刺殺する事件が起きた熊沢英昭容疑者の自宅=東京都練馬区 (c)朝日新聞社

「ひきこもりの子供としっかりと向き合わないといけないと考える親が増えている」

 こう話すのは、東京都福祉保健局のひきこもり支援の担当者だ。都では「ひきこもりサポートネット」を設置し、相談にあたっているが、1日10件程度だった相談が、最近は20件前後に増えているという。

 背景に、立て続けに起こったひきこもりに関する事件がある。6月1日、東京都練馬区で元農林水産事務次官の沢英昭容疑者(76)がひきこもりがちの長男・英一郎さん(44)を刺殺する事件が起きた。先月末に起こった川崎市の殺傷事件のように、息子が子供に危害を加えることを危惧しての犯行と見られる。

 ひきこもりにどう対処すべきか。専門家への取材で共通するアドバイスは「家庭だけで抱え込まない」ことだ。紀の川病院副院長でひきこもり研究センター長の宮西照夫さんは「暴力が起こった時点で、専門家がかかわらないといけない」と注意を促す。

 親が我慢してしまうと、異常な暴力へとエスカレートすることもある。宮西さんはこう話す。

「第三者に相談できるかどうかが重要です。私たちがかかわるときは『親に手を出したら、警察を呼ぶ』とはっきり伝える。他方で『安いモノなら壊してもいい』と暴力を完全に否定はしない。精神科医や臨床心理士など専門家が適切に対応する必要がある」

 80代の親が50代の子供の面倒を見る「8050問題」など、中高年のひきこもりは長期化することが多い。親が高齢化し、面倒を見切れない不安に駆られる。ひきこもっている本人もその状況を感じ取り、追い込まれる。宮西さんは「専門機関に相談して、親の不安を和らげることが状況を改善させる一歩となる」という。

 中高年のひきこもりはいつでも起こる可能性がある。社会に出てから、退職や人間関係の悪化、病気などがきっかけとなるケースが多い。内閣府が今年3月に発表した40~64歳を対象にしたひきこもりの調査では、20代から60代まで全ての年代でひきこもりが始まる実態がわかっている。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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