「弁護士さんたちも画期的な判決だと言ってびっくりしていましたが、自分としては『当たり前じゃん!』と思っていますよ」
52年前に茨城県で起きた強盗殺人事件「布川事件」で、再審無罪が確定した桜井昌司さん(72)。今度は国家賠償請求訴訟で勝訴した。
国と県に約1億9000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(市原義孝裁判長)は5月27日、約7600万円の支払いを命じたのだ。
警察の捜査と、証拠開示を拒んだ検察官の対応を違法と認めた判決だ。原告の桜井さんは喜びを隠さないが、なお闘う姿勢を崩していない。
改めて、桜井さんに話を聞いた。
「裁判官が大変勇気のある判決を下してくれたことには感謝しています。ただ、警察がウソを言ったり、検察官が証拠を隠したりすることが許されていいわけがありません」
桜井さんと杉山卓男さん(2015年死去)は、茨城県警によって、一人暮らしの男性(当時62)を殺害し、現金を奪った犯人に仕立て上げられた。別件で逮捕されたうえで、身に覚えのない強殺事件で自白を強要された。
今回の判決では、取り調べの警察官が、被害者宅付近で桜井さんらを見たと供述している者はいないのに「目撃証言がある」と言い、桜井さんの母が「早く自白するように」と言っているなどとウソをついたと認定している。
桜井さんは当初、否認し続けたが、取り合ってもらえなかったという。
「無実の罪で留置場に入れられ、狭い取り調べ室で延々と『お前が犯人だ』と責められることすべてがつらかった。否認することは強大な力を持った相手とケンカをし続けることなんです。当時は知識がないから、いつまでその状態が続くかもわからない。人間って弱いから、目の前から逃げたくなる。それがウソの自白なんです」
裁判では一貫して無実を訴えた。しかし、78年に最高裁で無期懲役が確定する。桜井さんと杉山さんの再審開始が確定したのは、2009年12月になってから。11年、ようやく無罪判決を勝ち取った。
そもそも布川事件は被害者宅に残された指紋や毛髪、足跡など桜井さんらと一致する物的証拠はなかった。