そうした中、桜井さんらの無罪を示す証拠が検察によって隠され続けてきたことは改めて非難されるべきだろう。
桜井さんの自白では、殺害方法は両手で首を押さえつけて窒息死させた「扼殺」だったが、医師の『死体検案書』では死因を紐状のもので絞めた「絞殺」と推定していた。だが、捜査初期のあやふやな目撃証言の記録とともに検察官は開示しなかった。
今回の判決は、検察も断罪している。
<検察官は公益の代表者として事案の真相を明らかにする職責を負っている>
<検察官の手持ち証拠のうち、裁判の結果に影響を及ぼすものについては、有利不利を問わずに法廷に出すべき義務を負う>
開示拒否は違法と認定し、これらの違法行為がなければ、遅くとも2審判決(73年12月)で無罪判決が宣告され、直ちに釈放された可能性が高いと結論付けた。
桜井さんが怒りを込めて言う。
「検察官は真実義務があるのに、それをないがしろにしてきた。今回、真っ直ぐに批判されて、検察は存在意義が問われていると思います。近年、冤罪事件が次々と明らかになって、ようやく目覚める裁判官が増えてきたと感じています」
今年3月、桜井さんは、やはり再審無罪が確定した足利事件の菅谷正和さん、大阪・東住吉事件の青木恵子さんらとともに「冤罪犠牲者の会」を結成した。冤罪を起こさないための法整備を国会に働きかけていくという。
「警察官や検察官がウソをついたり、証拠を捏造したりするのは個人の責任が問われないと考えているからです。だから、個人の責任を問う必要があります。証拠の捏造や隠滅などができなくなるような法整備を国会議員に提案したい。また、再審を判断するための第三者機関『再審審査会』を作って、国民自身が冤罪を考えていくシステムが絶対に必要だと思います」
国側は控訴するのかもしれないが、桜井さんは「自分は勝つことしか考えていないから」と笑った。あくまで前向きなのである。
(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日オンライン限定記事