インターコンチネンタルな響き
Lacrimas Mexicanas / Vinicius Cantuaria & Bill Frisell
昨年からビル・フリゼールの話題が絶えない。5月に招かれて取材したドイツ《メールス・フェスティヴァル》では、欧州初登場となった新トリオと、アルヴェ・ヘンリクセンとの初デュオ・ステージの2組を鑑賞。同メンバーによるトリオのSavoyデビュー作『ビューティフル・ドリーマーズ』が今年1月に国内でもリリースされて、新展開が認知される形になった。また1月下旬にはロン・カーター+ジョーイ・バロンとのトリオで丸の内「コットンクラブ」に出演し、カーター・ファンが多数詰め掛けて盛況を呈した。本作はその余韻が冷めないタイミングで登場したデュオ・アルバムである。
ヴィニシウス・カントゥアリアはブラジル生まれのシンガー&ソングライター/ギタリストで、70年代にカエターノ・ヴェローゾのバックを務め、80年代からはソロでも活動。90年代以降はニューヨークを拠点に、独自のブラジル音楽を追求してきた。
フリゼールとは四半世紀前からの知り合いだといい、2000年の『ヴィニシウス』にフリゼールが参加。2001年にはフリゼールが新しい音楽コンセプトを実現させるためヴィニシウスに声をかけてライヴを重ね、その成果は2003年発表作『ジ・インターコンチネンタルズ』で結実した。さらにフリゼールはヴィニシウスの昨年リリース作『Samba Carioca』に参加しており、ゼロ年代に入って両者の関係は濃密さを増している。以上を踏まえれば、今回初めてのデュオ作に至ったことも自然な流れとして理解できる。また2人は同じ1951年生まれということで、お互いに親近感を抱いているのかもしれない。
母国の音楽をベースにNYで様々な国籍のサウンドを吸収したヴィニシウスと、広義の米国音楽を滲ませながら独自のギター・オリエンテッドなサウンドを創造してきたフリゼール。出自こそ異なるものの、音楽と取り組む姿勢に共通性が感じられるデュオは、それぞれの個性が美しく融合し、まさにインターコンチネンタルな響きを生んでいる。その背景に存在するのが信頼関係だ。それがあるからこそ、このリラクゼーションに満ちた音空間が成り立っているのだと思う。フレッド・ハーシュやジム・ホールとデュオ作を吹き込んできたフリゼールが、そのミュージシャン・リストに新たな名前を加えた。ヴィニシウスのファンやブラジル音楽のファンに存在をアピールできる点でも、フリゼールの新境地になりそう。ジャンルレスな音楽ファンなら必聴の作品だ。
【収録曲一覧】
1. Mi Declaracion
2. Calle 7
3. La Curva
4. Lagrimas Mexicanas
5. Lagrimas De Amor
6. Cafezinho
7. El Camino
8. Aquela Mulher
9. Briga De Namorados
10. Forinfas
ヴィニシウス・カントゥアーリア:Vinicius Cantuaria(vo,ac-g,per)
ビル・フリゼール: Bill Frisell(el-g,ac-g,loops) (allmusic.comへリンクします)
録音年月日不詳