事件現場となった品川区内の有料老人ホーム (c)朝日新聞社
事件現場となった品川区内の有料老人ホーム (c)朝日新聞社
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 またも、入居者の尊い命が犠牲になってしまった。

 東京都品川区の有料老人ホームで入居者の82歳の男性が死亡していたことがわかり、警視庁は5月22日、元介護職員の根本智紀容疑者(28)を殺人の疑いで逮捕し、発表した。調べに対し、「暴行を加えたということはありません」と容疑を否認しているという。

 警視庁によると、根本容疑者は有料老人ホームで働いていた4月3日から4日にかけて、入居者の当時82歳の男性に暴行を加えて死亡させた疑いが持たれている。

 こうした介護施設での入居者への暴行・虐待は後を絶たない。

 厚生労働省が今年3月発表した実態調査では、介護職員らによる高齢者への虐待が2017年度に510件あり、過去最多を更新した。調査開始以来、11年連続の増加で、被害者は認知症の人が約8割を占めている。

 調査は、厚労省が高齢者虐待防止法に基づき、毎年実施。17年度に自治体が虐待と判断した件数を集計したもの。

 被害者が複数いる場合があるため、職員による虐待の被害者は854人。82.2%の人には認知症があった。

 虐待の種類では、暴力や拘束などの身体的虐待が59.8%で最多。暴言などの心理的虐待、介護等放棄と続いた。

 施設・事業所の種類では、特別養護老人ホームが30.4%で最も多かった。原因は「教育・知識・介護技術等の問題」が60.1%と最多で、「職員のストレスや感情コントロールの問題」が続いている。

 立件されたケースも多い。

 14年に川崎市の介護付き有料老人ホームで入所者3人が転落死した事件では、18年3月に元職員の男が死刑判決を受けた。18年8月には本市西区の介護施設で、職員の男が認知症の入所女性を殴り死なせたとして傷害致死罪で起訴されている。

 年々深刻化する介護施設での虐待。社会福祉学が専門の淑徳大学の結城康博(ゆうきやすひろ)教授が背景を説明する。

「まず介護職の人手不足の問題がある。加えて、介護報酬を優先し、人材の質を見極めずに職員を採用しているホームがある」

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