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5月23日から東京・上野の森美術館で、「時代 -立木義浩 写真展 1959-2019 -」が開催されている(~6月9日)。60年にもわたる写真家生活で、数え切れないほどの著名人を撮り続けてきた立木義浩。その作品群は時代の空気に満ちている。
いまは誰もがスマホで手軽に、しかもうまく撮れてしまう。かつてこれほど写真に溢れ、はしゃいでいた世の中はなかった。「だから、写真家の力が問われる」と立木義浩は考える。はっきりと表れるのが人間の肖像だ。市井の人も著名人も、その肖像には、「時代」が刻まれているのか?
立木は、広告写真からスタートし、20代の前半には週刊誌やファッション誌のグラビアを席巻していた。そして60年に及ぶ写真家人生のなかで俳優、歌手、作家など、著名人を撮り続けてきた。原動力の一つは、「自分の思い通りにならないことの尽きない面白さ」だという。スターの眩(まばゆ)い輝き、芸術家たちの強烈なオーラは、つねに時代の空気と結びながらわれわれを刺激する。著名人たちの表情はそれぞれの時代を彩る顔なのだ。
夏目雅子が垣間見せた愛らしい微笑み、サングラスの奥に光る松田優作の鋭いまなざし。そんな一瞬の素顔の向こうに、あの頃の想い、ざわめきが息づいている。(取材・文/池谷修一[アサヒカメラ])
※週刊朝日 2019年5月31日号
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