がん治療薬の「オプジーボ(ニボルマブ)」で、患者11人に副作用とみられる脳の機能障害が起こり、うち1人が死亡していることがわかった。
「脳の機能障害とは、具体的には下垂体機能障害です」
こう話すのは、国際医療福祉大学三田病院(東京都港区)悪性リンパ腫・血液腫瘍センター長の畠清彦医師だ。下垂体はさまざまなホルモン分泌を調整する臓器。機能異常があると低血圧や低血糖、免疫力の低下を招き、命にかかわることもある。
オプジーボは、免疫の仕組みを利用してがん治療をする「免疫チェックポイント阻害薬」の一つ。ノーベル医学生理学受賞で注目されている薬だ。
私たちの体にある免疫細胞は、がん細胞などの異物を発見するとそれを攻撃する。ところが、がん細胞はその免疫細胞の攻撃を弱める仕掛けを持っており、その結果、免疫細胞はがん細胞への攻撃を弱めてしまう。
免疫チェックポイント阻害剤は、免疫細胞の一つT細胞ががんへの攻撃を弱めることを阻止する作用を持ち、これによりT細胞は強力にがんをたたくことができる。実は「この免疫の仕組みが副作用にも関係している」と畠医師は説明する。
「薬で攻撃性が高まったT細胞は、がん細胞だけでなく、自己の組織も攻撃するのです」
これまでにオプジーボでは、下垂体の機能低下のほか、間質性肺炎や心筋炎、糖尿病などの「自己免疫関連副作用」が報告されている。それぞれ、肺の間質という部分や心筋、膵臓(すいぞう)などがダメージを受けることで起こった副作用だ。海外では、オプジーボと同じタイプの「キイトルーダ(ぺムブロリズマブブ)」で同様の報告がある。
「T細胞は全身に存在しているので、どこの臓器がダメージを受けるかわからず、“抗がん剤=脱毛”というように副作用を特定しにくい。だからこそ、治療前に心臓などの検査をして問題がないかを確認することが大事。治療中も定期的な血液検査が必要です」(畠医師)