新人は未完成で当然。その分、伸びしろがある。ラジオは未完成な喋り手をじっくり育て、30代で花を開かせる。植物の種だってはじめはどれも同じに見える。しかし、いずれ芽を出し、成長して葉を広げそれぞれの花を咲かせる。そのために日々水をやり、肥料を与え、日差しの良いところに置くのが先輩の役割だ(しかし、ひと頃流行った英語交じりでぺらぺら喋るバイリンガルDJはどこへ行ったのだろう?)。
♪6時のターミナルでふりむいたきみは/板に付いた紺色のスーツ
今でも気まぐれに街をゆくぼくは/変わらないよ ああ あの頃のままさ♪
これはユーミンの楽曲「あの頃のまま」のフレーズだ。「紺色のスーツ」は、学生運動に見きりをつけ、長かった髪を切って就職した友達の姿を象徴している。「変わらない『ぼく』」と「たわいない夢なんかとっくに切り捨てた『きみ』」と、二つの人格の対比で青春の決別を見事に表現した名曲だが、ユーミンが呉田軽穂名でブレッド&バターに提供したのは1979年。もう40年前の作品。当時から紺色のスーツはセンチメンタルな青春を指すキーワードだった。
歌詞に「人生のひとふし」という言葉があるが、就職は一生に一度の大切な大事な区切り。リクルートスーツを選ばざるを得なかった心の揺れこそが若さである。青は青春の青であり、フランス語のブリュには憂いの意味もある。悩むのは若さの特権なのだ。
それにしても、紺のスーツをシックだと感じるのは僕だけだろうか。自分はこれから新しい世界に行くのだという爽やかな意志を表すと思うのだが。
※週刊朝日 2019年5月17日号