TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回のテーマは「リクルートスーツとユーミンの名曲『あの頃のまま』」。
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僕が勤めるラジオ局では、今年の新入社員全員が女性である。4桁に上る応募総数を突破して入社2カ月目。彼女たちは新人ラジオウーマンとして編成・制作・事業・営業・ネットワークと各部署を回り、秋に配属が決まる。
「全員女子なのは不正がない証拠だね。どんどんアピールした方がいい」とはTOKYO FM番組審議委員の秋元康さん。彼女らが内定を果たしたのは、折しも医学部で女子が不利に扱われた不正入試問題が発覚した時期だった。
同じようなスーツを着ているせいかもしれない。はじめのうち、彼女らはみんな同じように見えた。しかし、AD(アシスタント・ディレクター)として、ブラウスの袖をまくって慣れないスタジオ作業に励んだり、「おはようございます。新入社員の○○です!」と45度に上半身を折り曲げて出演者に挨拶したり、先輩に連れられて電通や博報堂へ出向いたりと、その溌剌さは春の若葉のように初々しい。
紺一色のいわゆるリクルートスーツは、「個性を捨てる」とか「思考停止の象徴」だと揶揄(やゆ)されがちだが、それは勝手な思い込みに過ぎない。新人は新人なりに自分の職種や将来について前向きになったり、時にナイーブになったり。思考停止なんてしていない。
そもそも企業の採用試験はロックミュージシャンのオーディションではなく、奇抜な恰好が受けるわけでもない。どんな人材を採用するかは企業の経営に直結する。それを託された面接官の眼は節穴でなく、一見普通に見える学生の、スーツの奥に隠された才能というか、きらりと光る言葉や仕草を探している。「個性」が大切なのは言うまでもない。
だが、それはスーツの見た目とは無関係だ。
パーソナリティーの試験にしても、どこまでもよどみなく喋るのが有利かと言えば、そうとも限らない。「立て板に水」の流暢さより、言葉を止めてふと考えたり(これがいわゆる「間」につながる)、どちらかと言えば朴訥(ぼくとつ)な方が伝わることもある。