静かな感動を呼ぶデュオ・アルバム
Phil & Bill / Phil Woods & Bill Mays
3月11日に起こった東日本大震災は音楽業界にも大きな影響をもたらした。東京のジャズ・クラブに出演予定だった海外のミュージシャンが相次いで来日をキャンセル。シーンは一気に冷え込んだ。そんな中、スケジュール通りにクインテットを率いて日本に上陸し、3月下旬のクラブ・ツアーを実現させたフィル・ウッズは、期待を裏切らない心意気と、今年80歳を迎える高齢とは思えない吹きっぷりで、ファンを大満足させたのである。
これはウッズと来日メンバーでもあったビル・メイズとのデュオ・アルバムだ。ウッズのデュオ作にはジム・マクニーリーとの『Flowers For Hodges』、エンリコ・ピエラヌンツィとの『Elsa』(以上91年)、フランコ・ダンドレアとの『Our Monk』(94年)、『Balladeer Supreme 1』(2000年)、ジョン・コーツとの『Giants At Play』と、ピアニストがパートナーの作品が多い。そんな嗜好を持つウッズは、数年前にメイズが自己のクインテットに参加して以来、デュオ作を構想していたという。メイズは上記ピアニストの誰ともタイプが異なるが、ウッズの音楽性を踏まえると、実は最も手の合う適任だとわかる。レーベルのPalmettoはメイズがリーダー作をリリースしており、本作はそのつながりで企画・制作されたのだろう。
プログラムはスタンダード・ナンバーを中心に進行。アルトサックスの音色が豊かに響き渡るバラード#1、メイズが積極的に絡んでホットな対話を繰り広げる#6、ゆったりとしたテンポでじっくりと歌い上げる本作最長8分超の#7と、これまでのウッズを知るファンならば、好調さをキープする雄姿を確認できて、嬉しい気持ちになるはずだ。注目したいのはウッズのオリジナル曲#5。
人名を含むウッズ曲と言えばビル・エヴァンス他界4ヵ月後に吹き込んだ<グッドバイ・ミスター・エヴァンス>が知られており、これは新たな好例に加わったナンバー。昨年5月に91歳で大往生したハンクを悼んでこの曲を書き、他界4ヵ月後に録音したのである。ウッズとハンクの共演は1956年のバードランド・スターズと、クインシー・ジョーンズ盤にさかのぼるわけで、ウッズがトリビュート曲を収録したのは故ないことではない。ここではウッズはもちろん、メイズも偉大な先達ピアニストへの想いを真摯に綴っていて、静かな感動を呼ぶ。近年のウッズのレコーディング活動に関しては、LAジャズ・オーケストラなど大型編成の作品が多かっただけに、ファンへの朗報となる新作だ。
【収録曲一覧】
1. All This And Heaven Too
2. Blues For Lopes
3. Danielle
4. Do I Love You
5. Hank Jones
6. I’m All Smiles
7. How Long Has This Been Going On
8. The Best Thing For You Would Be Me
9. Our Waltz
フィル・ウッズ:Phil Woods(as) (allmusic.comへリンクします)
ビル・メイズ:Bill Mays(p) (allmusic.comへリンクします)
2010年9月録音