人生100年時代の今、定年後はゆっくり老後を……と考えるのはもう古いのかもしれない。人手不足の現在、シニア雇用の門戸が広がっている。
「年金受給が本格的に始まる65歳で、フルタイム勤務を卒業したいと考える人は多いでしょう。でも、完全にリタイアするより、週2~3日とか1日4~6時間ほどの短時間でいいので働き続けるのがおススメです」
そう話すのは、ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の小野みゆきさん。60歳以降に再雇用や継続雇用で働き続けても、65歳でいったん区切りをつける人が多い。気になるのはその後の身の振り方。短時間でも働き続ければ生活にリズムができるうえ、家計も安定するという。
家計調査(2017年)によると、65歳以上の世帯の消費支出額は月約24万7千円。一方で、平均的な収入の元会社員と専業主婦世帯の年金額は約22万円。フルタイムでなくても、パートやアルバイトなどで月数万円補えば、貯蓄を取り崩さずに過ごせる。
とはいえ、60代前半ならともかく、65歳以降で希望に合う求人はあるのか。シニア層の就業事情に詳しい、リクルートジョブズ・ジョブズリサーチセンター長の宇佐川邦子さんは指摘する。
「人材不足のため、採用の門戸をシニアに広げる企業が増えており、雇用環境は年々改善しています。むしろ、シニア自身の意識のほうが問題です。自己評価が低く、働くことをあきらめている人も多いのです」
というのも、今の60代後半の人たちが60歳で再就職活動したころは、今ほど人手不足感がなく、企業はシニア雇用にあまり積極的でなかったという。
「年齢を告げるだけで電話を切られるなど、面接までたどりつけず苦しい思いを経験した人は多い。そのつらい記憶から、雇ってくれる会社なんてないと思い込んでいる人も少なくないのです」(宇佐川さん)
現実には、わずか5年あまりで企業の姿勢は大きく変わったという。シニアの就業事情は今後も改善していく、と宇佐川さんはみる。
「働き方改革が進んだおかげで、働く環境も改善しています。短時間勤務を認めたり、休日取得を徹底したり、休憩室の環境や福利厚生を充実させたりする企業も増えています。介護施設、工場、物流などの現場でも省力化や自動化が進み、体力的な負荷は減っています」(同)