もし、あのとき、別の選択をしていたなら──。著名人に人生の岐路に立ち返ってもらう「もう一つの自分史」。今回は、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」などで知られる漫画家の松本零士さんです。SFといえども、キャラクター設定やストーリー展開で大事にしたのはリアリティーだそうです。人気漫画家の原点をひもときます。
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高校卒業後、出版社から「一刻も早く雄姿現したまへ」という電報が来て、九州から上京を決意しました。月刊誌で連載が決まったのです。
当時は、夕方に夜行列車で小倉を出て東京まで24時間の旅です。真っ暗な関門トンネルに入っていくときの気持ちは、新しい世界への期待に胸躍らせつつ、とても心細かった。のちに「銀河鉄道999」で鉄郎が宇宙に旅立つ場面は、そのときの気持ちを思い出しながら描きました。
夜行列車の中では、隣の席のおじさんがおにぎりをくれたり、新婚旅行のカップルが弁当を買ってくれたり。「漫画家になるんだ」って話すと、「がんばれよ」と応援してくれました。お酒も「飲め、飲め」って勧められましたが、まだ飲んだことがなかったので、それはこっそり窓から捨てましたけど。
僕は、実際に体験しないと、本当にリアルな表現はできないというのが持論です。映像や写真で見たのと、手触りやにおいまで知っているのとでは、ぜんぜん違う。
それだけに、宇宙をさんざん描いていながら、まだ宇宙に行っていないというのは、極めて不本意です。死ぬまでにぜひ、宇宙から地球を見てみたい。事あるごとに「片道切符でいいから、宇宙に行かせてほしい」と言っていますが、誰もちゃんと取り合ってくれません。僕は大まじめに言ってるんですけどね。
――松本は、幼いころから漫画やアニメに魅せられ、小学生ですでに自分の作品を書いていた。高校生のときには投稿作品が雑誌に掲載され、「小倉の松本晟(あきら=本名)」の存在は、広く知られるようになっていた。一方で、それ以前から抱いていたのが宇宙へのあこがれ。父親の影響が大きかった。