●あるジャズ・カメラマンの記録
1940年代後期、カメラマンのハーマン・レナードは、ジャズに情熱を傾け、ブロードウェイ52丁目やハーレムの文字通り“スウィング”するクラブに足しげく通った。
フリーパス代わりのカメラを携えた彼は、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、ビリー・ホリデイ、デューク・エリントン等、ジャズ史に名を刻む大物ミュージシャンの写真を撮り、彼らと親交を深める。
レナードは、ヨーセフ・カーシュの下でカメラマンの見習いとして1年過ごし、その間、アルバート・アインシュタイン、ハリー・S・トルーマン、クラーク・ゲーブルといったそうそうたる人物の写真撮影に関わる貴重な体験をした。1956年にはマーロン・ブランドの極東への視察旅行に同行する専属カメラマンに選ばれる。
1950年代後期、レナードはパリへと旅立ち、ファッションと広告の分野で活動、プレイボーイ誌のヨーロッパ担当カメラマンを務めた。そして1980年代、ようやく華やかなパリを後にし、地中海西部のバレアーレス諸島に属する楽園イビサ島に移り住む。
レナードはその島で、彼のベッドの下に隠れていたダンボール箱の中から、長い間忘れていたジャズ・ミュージシャンの大量のネガを見つけた。写真撮影による一つの文化遺産をもたらすことになるネガである。
1988年、ハーマン・レナードの初のジャズ写真展がロンドンで開かれ、大成功を収めた。それ以降、彼の展示会は、世界各国で100回以上にわたり開催されてきた。また、ワシントン・D.C.のスミソニアン・インスティテューションは、常設の音楽史のコレクションの中に彼のジャズの写真をすべて収め、その功績を讃えている。
レナードの作品は、現代文化の中に根付いている。さまざまな印刷物、ドキュメンタリー・フィルムや映画を含め、ありとあらゆるメディアにおいて、ハーマン・レナードのジャズの写真は、アメリカの独創的な芸術表現形式である“ユニークなサウンド”を創造した偉大なミュージシャンに付随する形で登場する。
●『ジャズ・メモリーズ』とは
クリフォード・ブラウンとマックス・ローチは、『ベイジン・ストリート』で感情のこもった絶妙の演奏を繰り広げていた。セロニアス・モンクは、『ファイヴ・スポット』で王様然と振る舞っていた。カウント・ベイシーの強力なオーケストラは、『バードランド』で観客を沸かせ、クライマックスを迎えようとしていた。
ジャズ・ジャイアンツの大半が健在で、ジャズにとって奇跡的な時代だった。ハーマン・レナードは、まさにその場に身を置き、きわめて印象的な写真を撮り続けた。それらは、彼が愛するミュージシャンの人間性や本質的な芸術性を瞬時にして捉えた数々のショットである。
本書『ジャズ・メモリーズ』は、レナードの撮影によるジャズ・ミュージシャン31名の人物像、彼らのパフォーマンスを収録したCD、そしてそれらのセッションにまつわるエピソードを一体化した、視覚と聴覚に訴えるこの上なく刺激的な記録である。