そしてこの騒動はネットのみならず、複数の夕刊紙、さらには毎日新聞にまで取り上げられ、学生本人が実名で取材に応じ、大学側の説明に反論している。わずか10人ほどにしか届かなかった学生の声は、ネットに広がり、新聞紙面に掲載され、多くの人が目にすることになったのだ。
この一件は、いわゆる「ストライサンド効果」の典型事例といえるだろう。ストライサンド効果とは、特定の情報を隠蔽(いんぺい)・排除しようとしたことで、かえってその情報が広範囲に拡散してしまうという現象だ。米国の歌手・女優のバーブラ・ストライサンドが、環境保全のために撮影され、ネット上に公開されていた1万2千枚の空撮写真の一部に自宅が写り込んでいたとして、削除と巨額の損害賠償を求める裁判を起こした事件に由来している。訴訟を起こさなければほとんど知られることのなかった写真が、訴訟の理不尽さによって注目され、結果的にその存在が広く知れ渡ってしまったというわけだ。
ストライサンド効果は、ソーシャルメディア時代にともない、よりいっそう顕著になっている。今回の一件は東洋大学だけでなく、様々な大学にも多くの教訓を残したはずだ。
※週刊朝日 2019年2月15日号