ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。東洋大学で起きた「ストライサンド効果」の典型例を解説する。
* * *
東洋大学の白山キャンパス内で同大4年の学生が1月21日、「竹中平蔵による授業反対!」と書かれた立て看板を掲示し、ビラを配布した。ビラでは、竹中氏が小泉政権下で進めた労働者派遣法の改悪が非正規雇用を増大させ、若い世代が使い捨てにされていると指摘。そうした政策は竹中氏が会長を務める人材派遣会社への利益誘導ではないかという疑念、そのような人物を同大教授として招聘(しょうへい)している大学への批判がつづられていた。
駆けつけた数人の大学職員によって立て看板は撤去され、学生は連れていかれた。キャンパスの片隅でたった一人の学生があげた怒りの声は、ほんの10分ほどで打ち切られ、わずか10人ほどにしか届くことはなかった。
しかし翌日から、その声はネット上に広く拡散した。学生の知人が、大学当局の理不尽な対応をフェイスブックに投稿したためだ。大学職員は学生を2時間半にわたって事情聴取したとされ、無許可の立て看板設置やビラ配りについて、「大学のイメージを損ねた責任を取れるのか」「君の将来に影響が出る」などと叱責(しっせき)したという。学生が抗議活動のために作成したツイッターアカウントの削除も、求めたという。
さらに職員は、「大学の秩序を乱し学生の本分に反する者」を退学処分にできる規定を示し、「改めて君や親に電話する」などと伝えたという。こうした対応に、ネット上では疑問や批判の声が相次いだ。
こうした批判を受けて、東洋大学は1月23日、「一部ネット等で散見されるような」退学処分の事実はないとして、学生個人の特定や詮索(せんさく)を控えるよう配慮を求める声明を発表した。だがこの発表は、学生の行為が退学を「警告」するほどのものであったかという疑問に答えるものではなく、批判は更に強まっていった。