
●マイルスとの共演で知られる魔術師の秘密に迫る評伝
ギル・エヴァンスの人生(1912-1988)と活動歴は、20世紀におけるジャズ界の急激な変化と符合し、またその変化を予兆する場合もあった。エヴァンスは、コンポーザー、アレンジャー、バンド・リーダーとして、40年という長い年月にわたり共作を重ねたマイルス・デイヴィスや彼自身のアンサンブルのために常に革新的な手法をとった。
彼は、その功績によって、デューク・エリントン、アーロン・コープランドと肩を並べるアメリカ音楽の巨匠に位置づけられる。老いてなお衰えをみせなかった創造性は、白人や黒人という人種の壁を越えて、全世界のきわめて優れたジャズ・ミュージシャンに刺激を与えた。
本書『ギル・エヴァンス~アウト・オブ・ザ・クール』は、ミュージシャン仲間にしばしば師と仰がれた独学のミュージシャンの初の包括的な伝記である。カリフォルニアで大恐慌の最中にダンス・バンドを結成した初期の音楽活動、ハリウッドでスタジオ・アレンジャーとして過ごした無名時代、ビッグ・バンド全盛期の異彩を放つバンド・リーダー、クロード・ソーンヒルにアレンジを提供し成功への足がかりを掴んだ過程というように、若きエヴァンスの軌跡を辿る。
1946年、エヴァンスはニューヨークに拠点を移した。彼が住むアパートの地下の一室は、すぐさまミュージシャンの溜まり場となった。そしてその一室で、マイルス・デイヴィス、ジェリー・マリガン、ジョン・ルイス等が議論を戦わせた。それが、マイルス・デイヴィス・ノネットによる『クールの誕生』のスコアや後のエヴァンスとマイルスによる一連の傑作『マイルス・アヘッド』『ポーギー&ベス』『スケッチズ・オブ・スペイン』として結実する。エヴァンスの創作は一貫して、他のミュージシャンの芸術性を高め、ある仲間にいわせれば、彼らを“音符のかなた”へと誘った。
1960年代後半以降、彼が自己の実験的なビッグ・バンドとともに創った音楽は、ギタリスト、ジミ・ヘンドリックスをはじめとするポップのスーパースターをも魅了した。エヴァンスは生涯にわたり、決して妥協のない魅力あふれる作品を創造しつづけた。
エヴァンスの友人、仕事仲間や家族の協力を得て、また数々のインタヴューや新たに発見された資料に基づいて著された本書は、アメリカの傑出した音楽家の伝記の決定版である。
●ギル・エヴァンスと本書に対する称賛の言葉
ギル・エヴァンスは、アメリカ音楽の偉人に名を連ねる、息を呑むようなオリジナリティをもつコンポーザー兼オーケストレイターだったが、喜ばしいことに、それが次第に認められつつある。著者ステファニー・スタイン・クリースは、その事実を綴り、感服すべき出色の人物に脚光を当てるべく貢献している。(ゲイリー・ギディンズ:『ビング・クロスビー:ア・ポケットフル・オブ・ドリームズ』『ヴィジョンズ・オブ・ジャズ:ザ・ファースト・センチュリー』の著者)
おそらくもっとも理解されず、過小評価されるジャズの側面、すなわちアレンジに対する偉大な貢献者の人物像がきめ細かく描かれている。スタイン・クリースのこの伝記は、エヴァンスが絶えず金欠状態にもかかわらず、常に彼のジャズのミューズに忠実な、アメリカの独創的ボヘミアンであることをあきらかにする。(リンダ・ダール:『モーニング・グローリー:ア・バイオグラフィー・オブ・メアリー・ルー・ウイリアムス』の著者)