捕鯨に対する賛否は科学的な調査データを通り超えて、哲学論争の領域に入ってきているかのようだ。こうした状況に見切りをつけるかのように、日本政府は2018年末に、国際捕鯨取締条約から脱退し、来年7月に商業捕鯨を再開すると決めた。捕鯨問題は海外、国内とも地域性が強い側面も浮き彫りになっている。
捕鯨に対しては、豪州やニュージーランドのような国々が強硬に反対しており、日本が主張してきた科学的なデータをもとに議論する姿勢を示してこなかった。日本政府は今回の決定について、1988年の商業捕鯨モラトリアムの決定以降、持続可能な商業捕鯨の実施に向け解決策を模索してきたが、保護のみ重視する国々から歩み寄りがなく、持続的利用と保護の立場の共存が不可能であることが明らかになったとしている。
鯨類は80数種あるとされ、シロナガスクジラのように絶滅の危機に瀕したものもあれば、日本が捕獲してきたミンククジラのように数が増えているものもある。日本の調査捕鯨により、クジラが大量の魚を食べている事実もわかっており、クジラを保護するだけでは海の生態系全体のバランスにさまざまな影響を与えるのではないかという指摘もある。
菅義偉内閣官房長官は会見で「科学的な根拠に基づき持続的に資源を利用する基本姿勢に変わりない」と強調している。
一方、日本国内では、多くの日本人にとって鯨食の文化はすたれてしまっていると思いがちで、なぜ今さらIWC脱退なのかという疑問もある。ここでも、日本の地域性が色濃く出てくる。
ある政府関係者は「北海道や福岡、長崎、佐賀や山口などにはクジラを食べる文化がある」と話す。捕鯨・鯨食は国内でも地域性が強いようだ。山口県といえば安倍晋三首相、福岡県といえば麻生太郎副総理のそれぞれ出身地盤でもある。水産庁によると、国内の鯨肉需要は年間4000~6000トンぐらいあるという。
菅官房長官は今回の決定により「地域の賑わいが増し、我が国の豊かな鯨文化が次の時代に継承されていく」と期待を表明した。