ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、俳優の鈴木保奈美さんを取り上げる。
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連ドラを毎週観るなど何年ぶりでしょうか。今は各局オンデマンドサービスがあるため、「あ、今週録画し忘れた!」とか「野球が延長して最後の15分録れてない!」なんてこともなく、好きな時間にしかもCM無しで観られる……と、『コード・ブルー』にハマった際にも書きましたが、今回はリアルタイムでの追っかけ視聴なので、最新話を観るために1週間しっかり待ちわびているのです。これがまた懐かしい感覚。
今期、私が観ていたのは『SUITS』(月曜9時)と『黄昏流星群』(木曜10時)。どちらもフジテレビのドラマです。それぞれ鈴木保奈美さんと中山美穂さんという私の青春時代を代表するヒロイン両巨頭が出演しています。おふたりとも、私が大学を卒業→海外へ留学→本格的なオカマ道へと進んだ98年~2002年ぐらいの間に、結婚・出産による休業期間に入り、10年ほどのブランクを経て数年前から女優活動を再開されました。そして平成の時代が終わろうとしているこの『2018年10月期』、平成前期のドラマ女王たちは奇しくも同時に、かつての主戦場である『月9』と『木10』の画面にメインキャストとして帰ってきたわけです。
特に鈴木保奈美さんに関しては、かの『東京ラブストーリー』で社会現象を巻き起こした織田裕二さんと27年ぶりの共演ということで、登場するたびに「いざ降臨!」と思わず声を上げずにはいられません。ましてや織田さんとのツーショット場面では、(今回は恋人同士の設定ではないものの)いつまたあの甲高い声で「ウーソーつーきー!」などと叫び出し、間髪入れずにもうひとりの小田さん(小田和正)の曲が流れ出すんじゃないかと固唾をのんでしまうほど。邪(よこしま)な鑑賞法であることは重々承知の上ですが、まるで洋画の吹き替えの如くクールでドヤ感たっぷりなふたりのお芝居を見る度に、「このふたり、若い頃は人目もはばからずに大声出して名前呼んだり、散々いろんな人を巻き込んで惚れた腫れたしていたくせに……」と、客同士の過去を胸に秘めつつもひとりカウンターの中でニヤけるゲイバーのママのような気持ちになりながら、毎週楽しませて頂きました。織田さん演じる『甲斐(かい)』を呼ぶ際に保奈美ちゃんが発する「カーイー」も、もはや「カーンチ!」の活用形か何かに聞こえてくる始末です。
そもそもこの『SUITS』、原作はアメリカの弁護士ドラマ。ホームドラマと恋愛ドラマ中心で育った身としては非常に難解な上に老化も相まって、1週間空くと前回までのストーリーをほとんど覚えていません。よって、何度も観返す。結果、43歳にして相当量の鈴木保奈美を摂取する日々を送っていました。さらには2週に一度、旦那様である石橋貴明さんとも仕事をしている私にとって、間違いなく今が人生で最も『鈴木保奈美度』の高い瞬間と言えるでしょう。もちろん先日までNHKで放送していた『主婦カツ!』も観ていました。どんな役でもどんな設定でも、鈴木保奈美には伝家の宝刀とも言えるキメ顔があります。眉を上げて目力(目線は斜め上なら尚良し)を込めたら、口角をキュッと上げる。それさえ観られれば何でもいいのかもしれません。しかし何年経ってもキメ顔だけでずっと観ていられる女優なんて、そうはいないと思うのです。
※週刊朝日 2018年12月28日号