『ザ・スタジオ・レコーディングス・オブ・ザ・マイルス・デイヴィス・クインテット1965-68』キース・ウォーターズ著
『ザ・スタジオ・レコーディングス・オブ・ザ・マイルス・デイヴィス・クインテット1965-68』キース・ウォーターズ著

●ザ・クインテット

 5人のミュージシャンがコロンビアのレコーディング・スタジオ(通称30丁目スタジオ)で、サックス奏者エディ・ハリスのオリジナル《フリーダム・ジャズ・ダンス》のリハーサルを開始する。マンハッタンのイースト・サイドに佇むかつての長老派教会は、アーチ型の高い天井、木摺を下地にした漆喰の壁、ニスをかけていないウッド・フロア、その名高い暖かく豊かな音響効果をもたらす条件がすべて整っている。

 マイルス・デイヴィスが、ベーシスト、ロン・カーターとともに演奏を始める。カーターが、伴奏部のベース・ラインを探る。デイヴィスは、カーターに助言を与える。カーターが、ファンキーなジャズ風の型どおりのラインを思いつく。デイヴィスはそれを撥ねつける。「いや、それはありきたりすぎる。いい加減にしろ」

 彼が、リズムを変えて口ずさむ。数分後、ピアニスト、ハービー・ハンコックが、より低い音域でカーターのベースと調和するピアノのメロディー・ラインを練り始める。デイヴィスが言う。「コードを叩け、ハービー。コードを叩け」

 デイヴィスは、ピアノに歩み寄り、B♭♯9(♯11)のコードを声に出す。ハンコックは、C♯ディミニッシュト7thのコードから成るより濃密なコードを、Dディミニッシュト7thのコードに重ねる。デイヴィスが答える。「ああ、悪くないぜ」。(第1章より抜粋)

●第2期マイルス・デイヴィス・クインテットによるスタジオ・セッションの全貌

 1960年代中期にマイルス・デイヴィスが率いた“セカンド・グレイト・クインテット”は今なお、ジャズ界に影響を及ぼしつづけている。グループとしての即興演奏による一体感と柔軟性、60年代に台頭したフリー・ジャズとハード・バップの絶妙な折衷が、ジャズのミュージシャンや歴史家及び評論家に賛美されてきたのである。

 本書『ザ・スタジオ・レコーディングス・オブ・ザ・マイルス・デイヴィス・クインテット1965-68』は、セカンド・クインテットのスタジオ・ワークを検証し、オリジナル・ヴァージョンにみられる驚くべき自由性を解明する。ここに登場する楽曲の多くは、以後ジャズのスタンダードになり、一様にモダン・ジャズの創造的発展に中心的な役割を果たした。

 著者キース・ウォーターズは、『E.S.P.』『マイルス・スマイルズ』『ソーサラー』『ネフェルティティ』『マイルス・イン・ザ・スカイ』『キリマンジャロの娘』という6枚のアルバムのレコーディング風景を克明に描写し、当時のディスク・レヴュー、5人のミュージシャンのインタヴュー、アレンジの詳細と共に、これまで調査されなかった二つの資料、すなわちスタジオのアウトテイクとライブラリー・オブ・コングレスに保管されているウエイン・ショーターの楽譜を援用し、吟味する。